eぶらあぼ 2013.11月号
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183 今年3月に紀尾井ホールで行われたリサイタルのライヴ録音。実際に聴けなかったことが心底悔やまれる、塵一つない洗練された演奏が記録されている。前半は、ストラヴィンスキー「イタリア組曲」を精妙な抑制の美で歌い上げ、ラヴェルのソナタを怜悧な情熱で構築。後半は、長原の愛奏曲、松下功「マントラ」の変幻自在な熱演で幕を開け、当夜の白眉となったR.シュトラウスのソナタへ。これほど切れ味が鋭く、しかも中身のぎっしりと詰まった演奏を筆者は他に知らない。清水和音の重厚で献身的な共演の妙も含め、この傑作のベスト録音と言っても過言ではないだろう。(渡辺謙太郎)長原幸太ヴァイオリン・リサイタル 2013◎ストラヴィンスキー:イタリア組曲 ◎ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ ◎松下功:「マントラ」 ◎R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ ◎グラズノフ:瞑想曲長原幸太(ヴァイオリン)清水和音(ピアノ) 次代の音楽界を担う若き才能が紡ぐ、バッハとシューマンの佳品。両曲とも、俊英たちは作品の全体像をきっちりと捉えた上で、それぞれに自身の立ち位置を明確化。シトコヴェツキによる、ゴルトベルクの有名な弦楽トリオ版は、決してバッハらしくは響かない編曲だが、特有の語法と作法を踏まえることで、再びバロックへと楽曲を引き戻し、原曲とは違った作品の魅力を浮き彫りに。そして、ピアノの北村朋幹が加わってのシューマンでは、ピアノをアンサンブルの軸に組み立てながらも、時に出るべきは出る大胆さを交えつつ、清々しい雰囲気に満ちた好演に仕上げている。(寺西 肇)バッハ:ゴルトベルク変奏曲&シューマン:ピアノ四重奏曲/トッパンホールアンサンブル◎J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲(シトコヴェツキ編弦楽三重奏版) ◎シューマン:ピアノ四重奏曲トッパンホールアンサンブル日下紗矢子(ヴァイオリン)赤坂智子(ヴィオラ)石坂団十郎(チェロ)北村朋幹(ピアノ) ウィーン・フィル史上初の弾き振りによる同協奏曲の全曲演奏。作品を知り尽くしたウィーンの音楽家たちによる正攻法の名演であるのはもとより、拍手入りのライヴ録音がもたらす鮮度の高さが印象的だ。ブッフビンダーは粒立ちの良い明確なタッチで濃密なソロを聴かせる。彼はメトロノームの速度指示を遵守する主義とのことだが、急くことなく引き締まったテンポで自然な流れを生み出し、特にベートーヴェン独特のビート感の明解さが、音楽に生気を与えている。弾き振りゆえかいつも以上に自発性を発揮するウィーン・フィルの音色とフレージングも絶妙の極み。(柴田克彦)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集/ブッフビンダー&ウィーン・フィル◎ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番〜第5番「皇帝」ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ&指揮)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 わが国の歴史的鍵盤楽器演奏の先駆けであり、その啓蒙にも力を尽くしてきた小林。80歳を記念してのチェンバロ名曲集は、さながら原点回帰か。一方で、この年齢を迎えてなお、さらなる高みを目指す芸術家の“いま”を切り取ったドキュメントでもある。チェンバロ紹介のステージでは必ずと言っていいほど弾かれるタイトル曲をはじめ、各国のバロックの巨匠の佳品に加え、少し時代を進めてモーツァルトの変奏曲を収録。深みのあるチェンバロの音色を縦糸に、奏者自身の温かな人柄と長年の演奏経験で培われた自信を横糸として、色鮮やかなタペストリーが織り上げられていく。(寺西 肇)調子の良い鍛冶屋〜チェンバロ名曲集/小林道夫◎ヘンデル:調子の良い鍛冶屋 ◎D.スカルラッティ:ソナタK9・K146 ◎テレマン:ソロ(組曲)ヘ長調 クープラン:◎恋の夜鶯 ◎山羊脚のサテュロス ◎ボワモルティエ:蚤 ◎ダカン:郭公 ◎パラディース:ソナタ第6番 ◎モーツァルト:「ああ、お母さん、あなたに言いましょう」による12の変奏曲 他小林道夫(チェンバロ)収録:2013年3月15日、紀尾井ホール(ライヴ)ソナーレ・アートオフィスSONARE1020-1(2枚組) ¥4200収録:2013年1月16日、トッパンホール(ライヴ)日本コロムビアCOCQ-85025 ¥2940収録:2011年5月、ウィーン、ムジークフェラインザール(ライヴ)ソニーミュージックSICC-30136〜8(3枚組) ¥5000収録:2013年5月、神奈川、伊勢原市民文化会館マイスター・ミュージック MM-2165 ¥2957CDCDCDCD

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