eぶらあぼ 2013.11月号
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この人いちおし176【CD】『レゾナンス』丸山勉(ホルン/フリューゲルホルン)松尾俊介(ギター) 岡崎悦子(ピアノ)◎ジェルヴェーズ:アルマンド ◎モーツァルト=カルッリ:8つのヴァイオリンとギターによる《フィガロの結婚》のアリア集より ◎モーツァルト:コンサートロンド変ホ長調K.371 ◎コレット:ギターとホルンのためのソナタイ長調 ◎グリエール:ロマンス ◎スクリャービン:同 ◎ラフマニノフ:同 ◎フランセ:ホルンとピアノのためのディヴェルティメント ◎グラナドス:オリエンタル ◎栗山和樹:組曲「もうひとつのグラナダ」 ◎モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス日本アコースティックレコーズ NARD-5044 ¥3000丸山 勉(ホルン/フリューゲルホルン)Tsutomu Maruyamaいつも「うた」を意識してホルンを吹いています 日本を代表するホルン奏者の一人・丸山勉が、前作から実に16年ぶりとなる、2枚目のソロ・アルバムをリリースした。 「実は1枚目のアルバムを出した時に、次のアルバムのためのジャケット写真も撮ってあったのです。すぐにでも出すつもりで(笑)。でも、出すからには、聴いて面白いものを作らないとならない。特にホルンのような楽器の場合は、ホルンを吹いている人たちに聴いてもらうのはもちろん、ホルンにあまり興味がない人たちにもアピールしないと、シェアが広がりません。そのバランスを取りながら、どうやって良いものを作るか、考えているうちに時間がたってしまいました」 収録曲の3分の2を占める、ホルンとギターの共演という、珍しい顔合わせは、その熟慮の末に行き着いたひとつの結論ということになるのだろう。 「ギターが好きなのです。それでずいぶん前から構想は持っていて、楽譜をストックしていました。ただ、実際にギターと演奏するのは僕自身も初めての経験ですから、もしダメだったらどうしようという怖さもありましたね。でも最初に合わせた時から、とても一体感を感じました。楽器の特徴として、お互いに包み込む性格があるのじゃないでしょうか」 共演は、パリ音楽院で学んだ若手ギタリストの松尾俊介。 「吹奏楽でホルンを吹いていた経験があるのだそうで、ホルンの音に対するイメージを持っていてくれたし、彼の音楽自体、すごく“ブレス”がある人なので、フレーズ感など共有しやすかったです」 アルバムの目玉となるのが、作曲家・栗山和樹による、この編成のための委嘱作品「もうひとつのグラナダ」。「スペインの薫りとジプシー(ロマ)的な響きを」という丸山のリクエストに呼応した作品だ。 「栗山さんは映画やドラマの音楽を多く手がけている方で、テレビを見ていて『この音楽良いなぁ』と思うと、不思議と栗山さんがてがけていることが多い。なので、ずっと何か書いてほしいと思っていたし、彼はギターの作品も書くので、これは栗山さんしかないなと。特殊な編成なので最初は戸惑われたようですが、情緒豊かな素晴らしい作品が出来上がりました。しかも、音程の跳躍ひとつとっても、実にホルンらしい動きで、さすが知っているなという感じです」 ギターだけではなく、ピアノとのアンサンブルによる作品も収録した。 「ギターとの“情熱”、ピアノとの“愛”という2本の柱を明確にして、全体的な輪郭をはっきりと作りたかったのです。ピアノの岡崎悦子さんは、実は大学時代の副科ピアノの先生です。ご主人がファゴットの岡崎耕治さんなので、お二人揃って面倒をみていただいたご夫婦。四半世紀も前からのつながりが、今ここに生きているのは感慨深いですね。よく聴いていただくと、ギターの時とピアノの時とではホルンの音色がまったく違うので、ホルンを吹く人にはそのあたりも細かく聴いてもらえればと思います」 禅問答めくかもしれないが、「ホルンを意識してほしくない」と語る。 「もちろんホルンなのですが、スタイルとして、僕はかなり『うた』を意識しているので。音楽家はみんなそうだと思いますが、僕もホルンという楽器で『うた』を歌っているだけなのです」 その豊かな「うた」が、ギターとともに、ピアノとともに、実にしなやかに聴けるアルバム。特にギターとの音の溶け合いは、ずっと前からこの音色に親しんでいたかのような錯覚さえおぼえる自然さだ。思いがけずこういう新しい音を体験できるから、音楽を聴くのは楽しい!取材・文:宮本 明

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