eぶらあぼ 2013.10月号
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70★10月3日(木)・東京文化会館●発売中問東京フィルチケットサービス 03-5353-9522http://www.tpo.or.jp 日本の伝統的な舞踊芸術と西洋のオーケストラとの融合の先に、誰も体験したことのない世界が広がっているのではないか。舞踊家としてはもちろん、振付家や俳優など多彩なキャリアを持ち、流派を超えて指導的立場にある日本舞踊界の重鎮、花柳流四世宗家家元の花柳壽輔(じゅすけ)。あくまで古典舞踊を礎としつつも、常に時代に即した表現を模索してきた彼が、そんな問いに対する答えのひとつとして見出したのが、このコラボレーションだ。新たなる伝統を創りたいという崇高な理想を目指す舞台になるだろう。 今回は、前回の公演を見て大変感銘を受けた、という坂東玉三郎が特別出演。振付を担当した壽輔と共に、渡邊一正指揮東京フィルハーモニー交響楽クラシックと日本の伝統芸術が生むシナジー日本舞踊とオーケストラ団との共演で、ドビュッシーのプレリュード「沈める寺」を舞う。千住博による舞台美術も楽しみだ。「ご覧になったお客様方が、様々な時代を超えた東西の舞台芸術の融合を楽しめることに大きな意味がある」と玉三郎は力を込める。 そして、ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」では、若柳里次朗が主人公ペトルーシュカに扮し、金子國義の舞台美術をバックに、時にシニカルな面も見せる繊細な物語の世界を再現。中村梅彌、西川扇千代ら6人の舞踊家によるムソルグスキー「展覧会の絵」は、日本舞踊の代表的演目である「娘道成寺」をモチーフに、囃子、有賀二郎による美術を巧みに関連付け、幻想的な舞台を展開する。さらに、最後に置かれたラヴェル「ボレロ」では、総勢40人の舞踊家が、ステージ狭しとばかりに圧倒的な迫力で舞う。文:笹田和人坂東玉三郎花柳壽輔第516回定期演奏会 〈トリフォニー・シリーズ〉★10月13日(日)、14日(月・祝)・すみだトリフォニーホール●発売中問新日本フィル・チケットボックス 03-5610-3815http://www.njp.or.jp 今や中堅世代の筆頭としてひっぱりだこの下野竜也が、10月の新日本フィル定期でブルックナーの交響曲第6番を振る。大阪フィルでの下積み時代の師・朝比奈隆のイメージが強かったためか、下野がブルックナーをレパートリーに取り入れるようになったのは比較的遅かった感がある。独自のスタイルと評価を確立した現在の下野に、亜流の影はもはや微塵もない。ブルックナーを振る機会もどんどん増えているが、周囲の期待に加え本人も確信を持っているのだろう。 すっきりと見通しのよいサウンド作り、無駄なく合理的で、現代人にとって心地よいテンポ設定。これが基本。満を持してのブルックナー「6番」下野竜也(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団ブルックナーのようなドイツ・オーストリアものならどっしとりしたサウンドを響かせ、長丁場をクライマックスに向けて緻密に設計する。スムーズな音楽運びのためには新味の解釈も辞さないが、そのあたりも下野を聴く楽しみとなっている。さらに楽団員を巻き込む集中力の高さ。人気の秘密を解き明かすなら、おおよそこんなところになるだろう。新日本フィルとは共演経験も多いので、快演が期待できる。 前半で演奏されるシューマンのチェロ協奏曲は、ブルックナーの第6番(イ長調)と調性的にも相性がよい(イ短調)。独奏を務めるルイジ・ピオヴァノはサンタチェチーリア管の首席ソロを務めるかたわら、ソロ・室内楽奏者としてもサヴァリッシュをはじめとする名手たちと共演している。自ら設立したカンパニア室内オーケストラでは指揮も披露するなど、マルチな才能を発揮する逸材だ。2年前の来日ではすでに下野とも共演しているから、こちらも息のあった爽やかな演奏が期待できよう。文:江藤光紀下野竜也ⒸToshiyuki Uranoルイジ・ピオヴァノ新日本フィルハーモニー交響楽団
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