eぶらあぼ 2013.10月号
49/249
ンドの平和に役立っています。なんせ若い子のいる前でおじさんたちが半可くさいことをやるのは恥ずかしいものでありまして(笑)」 不破は「ダンドリスト」として、こうした多種多様なメンバーたちをどのように統制しているのだろう。「手拍子してウケてるだけです(笑)。仕切ろうとしても仕切りきれないバンドですから。結局僕らは“脱ジャンル”とかではなくて、単純にあれも好きだしこれも好きだという“なんでもアリ”なんですよね」 その混沌としたアンコントローラブルな舞台=音楽に呼び込まれるのは、生きている者だけにかぎらないのかもしれない。「クラシックの作曲家もそうですけど、ジミ・ヘンドリックスもアルバート・アイラーもジョン・コルトレーンも死んでいる。でもまだ何か残っているものがあるとしたら、それは本当に死んでいると言えるのかしら。つまり僕らのやっていることも、音楽の歴史の過程のひとつかなと。まあいずれ忘れられていくものだとは思うんですが、若いメンバーたちが、不破ってのはいつも飲んだくれてさ、とか大嘘を、まあ半分ホントなんですが(笑)、語り継いでくれるのかな。ただ好きなんでしょうね、音楽が。そこは繋がっていくと思います。誤解も含めて、形が変わっても」 今回は一般公募の参加者と数日間のワークショップを行い、本番の舞台を共につくりあげていく。劇場ならではの一大スペクタクルが展開されるだろう。「劇場だと、火を噴いたり、水をふんだんに使ったりはできませんけど、逆にKAATの機構やスタッフの高い技術力を利用できる。だから大船に乗ったようなつもりです。龍ももちろん登場しますよ」 いっぽうで9月末には、劇場から飛び出し、横浜の海を望む山下公園や象の鼻テラスを練り歩く企画も。「どうなるんでしょうねえ。巨大なチンドン屋になるのか…。20歳の時かな、大晦日に横浜の港の見える丘公園で仲間たちと飲んでいて、そのうち缶ビールの空き缶を持ち出して、『ウッドストック』の映画のように叩いてカンカンカンカーンって鳴らすのを始めちゃったら、300人くらいの輪になったことがあったんですよ。あの盛り上がりが、もしかしたら渋さ知らズのルーツかもしれない。だからハーメルンの笛吹き男じゃないけれども、楽器とか鳴り物を持ってきて一緒に参加して踊ってもらえたら嬉しいし、偶然居合わせた人たちでそうなったら面白いですね。そういう隙のある空間として、ひろがりを持てたらと」取材・文:藤原ちから 写真:藤本史昭 ジャンルの枠に囚われない、匂い立つようなパワフルなサウンドで、老若男女を魅了し続けてきた超巨大バンド・渋さ知らズ。彼らは一体何者なのか? オーケストラを率いる不破大輔はこう語る。「山下洋輔さんからの影響も大きいし、頭の中はフリージャズのつもりですけれども、大衆音楽になるのかな。『渋彩歌謡大全』をリリースしたせいか最近はJ-POPの棚に入れられてたりもします(笑)。でもメンバーにはパンクロック、フリージャズ、フュージョン、コアなジャズの人もいるし、ここ10年は参加されていませんが、渋谷毅さんはレコード大賞の作曲家でもありますしね。僕らはラジオから聞こえてくる歌謡曲や、ロック、フォーク、ジャズ、現代音楽…それらを全部一緒くたに聴いてきたので、ハナから『ジャンル分け』という発想がない。一つの表情の中にいろんな要素が見つけられるものが音楽だと思ってきた。だからメンバーによって演奏方法も節も違うけど、音楽という“交通”を通して個々人が出会っていくことはできる。インプロヴィゼーションでお互いの音を聴き合って、楽しい演奏を目指していくんです」 今回、KAAT(神奈川芸術劇場)で行われる『天幕渋さ船~龍轍MANDALA~』は2日間の公演がメイン。初日は小川美潮と玉井夕海の両歌手をゲストに迎えて音楽を楽しむジャズセッション。2日目はザ・スターリン246と白崎映美(上々颱風)の他、白塗りの暗黒舞踏、コンテンポラリーダンス、キャバレー、エアリアル、フラフープなど、様々なスタイルのダンサーが入り乱れる巨大な祝祭的ライヴになる。「その混じり合うアンサンブルを共有できれば、ハッピーで面白いのじゃないかな」 メンバーの世代も幅広い。アングラ劇団「発見の会」の劇伴から発祥した渋さ知らズは、どんどん人材をリクルートして今の大所帯になった。「今は一番下が24歳くらいで、上が片山広明さん(サックス)で62歳。最近は若い女の子が増えて、バ“混じり合う”アンサンブルがハッピーなんじゃないかな46インタビュー渋さ知らズ大オーケストラ ©山下恭弘
元のページ