eぶらあぼ 2013.10月号
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ロヴィッツの指は裏返ったり横向きになっているのではないかというくらい、自由な動きをしていましたよね」 往年のヴィルトゥオーゾを彷彿とさせる26歳は、4年前より母校であるパリ音楽院で後進の指導にもあたり、作曲家としての活動にも力を入れるコンポーザー・ピアニストである。そんな彼が今年のソロ・リサイタルで聴かせてくれるのは、バッハ、ショパン、リスト、ラヴェルの作品によるプログラムだ。「もともとバッハ、ショパン、ラヴェルを3本柱として構想しました。この並びでバッハが入っているのは意外でしょうか? 実は、子どもの頃オルガンをよく弾いていたのでバッハにとても親しみがあり、僕自身がプログラミングする時には必ずと言っていいほど彼の作品を入れます。バッハは少なからずショパンにも影響を与えていると思います。もっともショパンはポーランド出身で20代からはパリで未来を切り開いた人なので、彼の感受性はフランスで作られたものでしょうけれど」 リスト作品は、村上春樹の小説で話題となったばかりの「巡礼の年第1年『スイス』」から第8曲「郷愁」を取り上げる。小説ではベルマンやブレンデルの録音について言及されているが、ヌーブルジェはどのような解釈のもとに、この文学的な香りの漂う小品を聴かせてくれるのだろうか。 リスト作品は、リサイタルに先立つサントリーホールのコンサートでもパーヴォ・ヤルヴィ指揮、パリ管弦楽団と共にピアノ協奏曲第2番を演奏する。「パリ管とはこれまでにも様々な形で共演してきました。ラヴェル、シューマン、それにフィリップ・マヌリの現代作品なども。今年の4月にはメンデルスゾーンの『2台のピアノのための協奏曲』を演奏しました。今回はパーヴォ・ヤルヴィさんと初めて共演できるのが楽しみです。彼の演奏は客席でもよく聴いてきました。彼のラフマニノフやプロコフィエフなどは素晴らしいですね。レパートリーが幅広くて、ベートーヴェンやハイドンといった古典派の演奏も素敵です。今回彼と演奏できることはとても光栄です。 リストの協奏曲第2番は、何度となく演奏してきているので僕にとっては慣れ親しんだ作品です。詩的で、弾くたびに新鮮で、不思議な力を湛えています。20分ほどの比較的コンパクトな作品ですが、オーケストレーションやハーモニーが豊かで、ワーグナーのJean-Frédéric Neuburger(ピアノ)1986年生まれ。パリ音楽院でエッセール、ケルネル、ゴラン、イヴァルディ、ブッケに師事。2006年ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディション優勝。同年カーネギーホールとケネディ・センターでリサイタルを開く。2010/11シーズンにはヨーロッパ・コンサートホール協会より“ライジングスター”の栄誉を与えられた。マゼール、ノット、ペンデレツキ、ヴァンスカ、フランクらの指揮のもと、パリ管、フランス国立放送フィル、ニューヨーク・フィル、フィラデルフィア管などと共演。録音ではモディリアーニ弦楽四重奏団との「ブラームス:ピアノ五重奏曲」などが好評を得ている。09年よりパリ音楽院教授。作曲家としても活躍している。リサイタル★11月6日(水)19:00・東京オペラシティコンサートホールパーヴォ・ヤルヴィ(指揮)パリ管弦楽団との共演★11月5日(火)19:00・サントリーホール●発売中問:カジモト・イープラス0570-06-9960http://www.kajimotoeplus.com他公演(パリ管との共演のみ)11/2(土) 15:00・京都コンサートホール(075-711-3090)11/3(日) 15:00・兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)11/4(月・休) 15:00・東京文化会館(都民劇場03-3572-4311)11/7(木) 19:00・横浜みなとみらいホール(045-682-2000)11/8(金) 19:00・ハーモニーホールふくい(0776-38-8282)11/9(土) 19:00・倉敷市民会館(くらしきコンサート086-422-2140)※11/3,11/4公演のみ「ラヴェル:左手のための協奏曲」。 他は「リスト:ピアノ協奏曲第2番」。Concert世界にも通じています。イ長調の明るい響きがなんと素晴らしいことか! 演奏していると、室内楽的な気持の良さも味わうことができます」 「巡礼の年」も協奏曲第2番も、リストが年月を経て手を入れたり、改訂を繰り返した作品だ。作曲家としての顔も持つヌーブルジェは、作品を練り直すという姿勢をどう捕らえているのだろうか。「作曲家としても演奏家としても、理想を求める姿勢は美の探求そのものです。ですからリストが改訂を繰り返したという点には、とても共感を覚えます。ブラームスもピアノ五重奏曲などは何度も改訂したと言われています。作り手なら誰でもパーフェクションを求めるのは当然でしょう。もっとも僕自身は作曲を始めてさほど長くはないので、自分の作品を改訂するとしても、ほんの1年か2年前の作品になりますけれど(笑)」 日本のホールのピアノは調律が行き届いており、世界的に見ても楽器の状態はベストだと語るヌーブルジェ。才気あふれる瑞々しい音楽性とテクニックとを、この秋も遺憾なく発揮してほしい。取材・文:飯田有抄43マークのある公演は、「eぶらあぼ」からチケットが購入できます(一部購入できない公演、チケット券種がございます)

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