eぶらあぼ 2013.10月号
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229 聴きなれた名曲に、新しいイマジネーションの翼を授ける快演だ。昨夏に発表したパイプオルガンでの「ゴルトベルク〜」録音や、この作品を巡る思索の道程を記した著書が大きな話題を呼んでいる塚谷。「《ゴルトベルク》演奏をライフワークにしたい」と熱き思いを語っていた彼女が、今度はポジティフ・オルガンを使用し、再び大作に挑んだ。前作の大型オルガンでの録音も、聴き手に想像する余地をあえて残した、慎ましさのある好演だったが、今回は音色の選択などで制約が増えたにもかかわらず、感性はより研ぎ澄まされ、音楽的なスケールも広がっている。実に不思議な感覚。(寺西 肇)J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲/塚谷水無子◎J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲塚谷水無子(ポジティフ・オルガン) N響の首席クラリネット奏者としておなじみの若き名手・松本健司が、3年ぶりに発表したソロ第2弾。11人の作曲家による14曲を収録した小品集で、どの作品も精確な技巧ときめ細やかな音色で整然と織り込まれている。ガーシュウィンのジャズ風な緩急巧みなシンコペーション、エスプリと洗練が理想的にバランスしたダマーズ、シューマンやブラームスといった後半のドイツ作品で際立つ柔らかな表現は、特に完成度が高い。その至芸が、前作に続いて共演者を務めている盟友・横山幸雄のピアノとの素晴らしく息が合った対話の中で展開されているのも聴きどころだ。(渡辺謙太郎)アラベスク〜クラリネット小品集/松本健司◎P.ジャンジャン:アラベスク ◎F.etM.ジャンジャン:ギスガンドリー ◎ガーシュウイン:3つの前奏曲 ◎ダマーズ:ヴァカンス ◎ランサン:3つの小品 ◎シューマン:3つのロマンス ブラームス:◎ワルツ第1番・第2番 ◎歌の調べのように 他松本健司(クラリネット)横山幸雄(ピアノ) ハンガリーと日本にルーツを持つ期待の俊英ピアニストが、“炎のコバケン”ことマエストロ小林研一郎と名門ロンドン・フィルの胸を借りて挑んだ、不朽の名協奏曲の録音。この曲においては、白刃を交えるような緊迫感を伴う演奏にもたびたび出会うが、これは違う。金子三勇士は技術をひけらかすようなことはせず、佳品の音符一つひとつへ丁寧に対峙。小林は温かい眼差しで見守るように、これを優しく包み込む。それだけに、秘めたる情熱を集約させた、終楽章のコーダはより感動的に。絶妙なバランスの録音には、技術陣の思い入れも存分。併録の金子のソロ楽曲も、なかなかの秀演だ。(笹田和人)チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番/金子三勇士&小林研一郎&ロンドン・フィルチャイコフスキー:◎ピアノ協奏曲第1番 ◎6つの小品より夜想曲 ◎18の小品より瞑想曲,子守唄 ◎子どものアルバムより6曲金子三勇士(ピアノ)小林研一郎(指揮)ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 ソリスト及び教育者として活躍する本格派ヴィルトゥオーゾの福井直昭。その現在を余すところなく記録した渾身の1枚だ。グリーグの2曲では、作品のロマンティックな抒情美を豊かに表現。初期から中期の小品から8曲を精選したスクリャービンでは、デリカシー溢れるタッチを駆使しながら、静謐で陰翳豊かな演奏を聴かせてくれる。また、終盤には、鬼才ケマル・ゲキチとのデュオによるリスト作品4曲を収録。ライヴ録音ということもあり、とにかく熱気が凄い! 中でも、目まぐるしく上下する音階を完璧な呼吸感で描き切った「ドン・ジョヴァンニの回想」が圧巻だ。(渡辺謙太郎)ヴィルトゥオジテ/福井直昭&ケマル・ゲキチ◎グリーグ:「ペール・ギュント」より2曲 ◎スクリャービン:小品集 リスト:◎ロッシーニ「ウィリアム・テル」序曲 ◎ハンガリー狂詩曲第2番 ◎「ドン・ジョヴァンニ」の回想 ◎半音階的大ギャロップ福井直昭(ピアノ)ケマル・ゲキチ(ピアノ)収録:2013年5月、山梨、小淵沢、草刈オルガン工房Pooh's Hoop PCD-1305 ¥オープン収録:2013年6月、神奈川、杜のホールはしもとマイスター・ミュージックMM-2161 ¥2957収録:2013年2月,3月,6月、ロンドン、アビー・ロード・スタジオ 他オクタヴィア・レコード OVXL-00080 ¥3800収録:2012年5月、横浜みなとみらいホール、2012年7月、東京オペラシティコンサートホール(ライヴ)コジマ録音 ALCD-9135 ¥2940CDCDSACDCD
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