eぶらあぼ 2013.10月号
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ぴっくあっぷ228 マーラーの3番は交響曲という形式に世界の森羅万象を盛り込んだ大作だ。マーラー指揮者として名を馳せてきたインバルと、日本のマーラー演奏を草創期からリードしてきた都響の2度目の録音となる本盤は、両者の到達した成果の記録となっている。第1楽章はテンポ設定が見事で、スムースな流れの中でインバルのアイディアが次々に炸裂していく。第2楽章の弦のつややかな歌い回し、第3楽章のポストホルンのたっぷりとしたメロディ、美しく縁どられたアルト独唱やにぎやかな鐘の音(第4・5楽章)。終楽章では寄せては返す息の長い音の波が、慈愛に満ちたカタルシスを生んでいく。(江藤光紀)マーラー:交響曲第3番/インバル&都響◎マーラー:交響曲第3番エリアフ・インバル(指揮)東京都交響楽団池田香織(メゾソプラノ)二期会合唱団 他 10歳よりウィーンで名教師陣に学び、自らの内に煌めく音楽性を着実に開花させている諸戸詩乃。20歳にして早くも3作目となるこのアルバムは、5年前のデビュー盤でも取り上げたモーツァルトに再び取り組んだ。今回は変奏曲集である。「きらきら星変奏曲」の名で親しまれるK.265(「ああ、お母さん〜」)のほか2つの変奏曲、そして変奏曲形式の第1楽章と「トルコ行進曲」を第3楽章に持つソナタ第11番を収めた。諸戸の趣味よくエレガントに入る装飾音、音域ごとに変化する音色、休符の絶妙な間合いが、変奏曲の多様な表情を際立たせる。若い彼女への期待が一層高まる1枚だ。(飯田有抄)モーツァルト:ピアノ変奏曲集&「トルコ行進曲付き」/諸戸詩乃モーツァルト:◎「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による12の変奏曲 ◎デュポールのメヌエットの主題による9つの変奏曲 ◎グルックの「メッカの巡礼たち」のアリエッタ「愚民の思うには」による10の変奏曲 ◎ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」諸戸詩乃(ピアノ) 東日本大震災のため、一旦中止になってしまった公演の復活上演。ピアソラの最高傑作と名高い《ブエノスアイレスのマリア》を、小松亮太を中心とした日本&南米のアーティスト全員が「もう明日はない」といった決意で挑んだような壮絶な演奏が記録されている。中でもアメリータ・バルタールの“人生を背負った”ような重みのあるマリアの存在感は圧倒的。彼女はピアソラの元パートナーでもあり、45年前の初演でマリアを演じた伝説的な歌手。おそらく、マリアに血肉を与えるのにバルタール以上の歌手はいないだろう。奇跡的な一夜の熱狂と興奮を伝える貴重なドキュメントだ。(大塚正昭)ピアソラ:《ブエノスアイレスのマリア》/小松亮太 他◎ピアソラ:タンゴ・オペリータ《ブエノスアイレスのマリア》アメリータ・バルタール(歌)レオナルド・グラナドス(歌)ギジェルモ・フェルナンデス(語り)小松亮太(バンドネオン)Tokyo Tango Dectet ピアニストとしてだけではなく、舞台や映画音楽の作曲など幅広い活動を行っている住友郁治。4月に東京文化会館で行われたリサイタルから、そこに生まれた空気感までもそのまま収めたライヴ録音。ベヒシュタインの、豊潤さと軽やかさを兼ね備えた音色を活かし、ベートーヴェンの3つのソナタ「悲愴」「月光」「熱情」を、それぞれ表情を変えて描き分ける。たびたび登場する、作品のエネルギーを奔出させるような力強い和音が印象的。住友が読み取るベートーヴェンのメッセージが、ときに感情的な、ときに親密な空気を醸しながら、確かな語り口で紡がれる。(高坂はる香)ベートーヴェン:悲愴、月光、熱情 他/住友郁治ベートーヴェン:◎ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 ◎同第14番「月光」 ◎同第23番「熱情」 ◎エリーゼのために住友郁治(ピアノ)収録:2012年10月27日,28日、横浜みなとみらいホール,東京芸術劇場(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00513(2枚組) ¥4200収録:2013年2月、ウィーン、スタジオ・バウムガルテンカメラータ・トウキョウ CMCD-28288 ¥2940収録:2013年6月29日、東京オペラシティコンサートホール(ライヴ)ソニーミュージックSICC-1644〜5(2枚組) ¥3570収録:2013年4月15日、東京文化会館(ライヴ)Bishop RecordsEXAC-011 ¥2500CDCDCDSACD
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