eぶらあぼ 2013.10月号
212/249

 実は僕は建築を見たり、いろいろ考えたりするのが大好きです。きっかけは、10年ほど前に家を建てたこと。世界的に見れば寒冷地としては比較的低緯度なので夏の日光照射が厳しいことや、寒冷地の割に多湿で降雪量も多いなどの特徴のある北海道に家を建てるため、最初は技術的なことに集中して建築の勉強をしました。まあ、勉強したといっても素人が資料集めて読みふけったくらいですけれど。 その時に、なかなか本や資料に解答が載っていなくて困ったのが、地中の基礎周りをどうするかということと、後は音楽室の音響設計でした。コンサートホールの音響については専門誌などにいろいろなデータが載っているのですが、個人宅の音楽室設計については本当にどうしたらよいか、答えが見つからずに困ってしまいました。大学院時代は都内で夜中に練習するため、あえて事務所みたいなところに住み、そこに小さな小さな防音室を作ってピアノを入れていましたけれど、防音室の中で音が反響するので耳が疲れたという経験があります。人間の体ってそういうところ正直で、心地よくないと体が拒否するんですよね。オーディオでも調子がよいとどんどんCDを聴きたくなるし、機械を変えてもいい音が鳴らない時は、自然と聴く時間が減ります。その時も練習時間が減ったので、内部に布を張ったりいろいろと工夫したものですが、病院に勤務している今、ただでさえ疲れて帰ってきて時間がない中で練習しなくてはいけない時に、体が練習を拒否してしまったらどうにもなりません。 幸い土地が余っている北海道の、しかも角地の角に音楽室を作りましたので、隣家まではどこも10メートル以上離れています。おまけに寒冷地用の高気密住宅ですから、外部への防音は考えなくて済むとなると、後は、練習する自分がいかに気持ちよい音を聴けるか、の勝負です ! 意を決した僕は、無謀にも突然、(株)永田音響設計に「永田先生いらっしゃいますか?」と電話をかけてしまいました。 永田音響は今や世界を代表する音響コンサルタント会社です。私ごとになりますが、この秋僕は音楽家デビュー25周年記念コンサートをやることにしています。その4ヵ所のホール(旭川大雪クリスタルホール、札幌コンサートホールKitara、紀尾井ホール、兵庫県立芸術文化センター)はすべて永田音響がコンサルタントとしてかかわっています。もちろんサントリーホールや、最近落成した大阪のフェスティバルホール、さらには、言われれば、確かに言葉が聞き取れないと困る最高裁大法廷の音響調整までもが、永田音響のお仕事です。それだけではありません、来日した巨匠たちがこれらのホールの音響に感銘を受けた結果、マリインスキー劇場(サンクトペテルブルク)、ラジオフランセホール(パリ)、ウォルト・ディズニーホール(ロサンジェルス)、台中オペラハウスなど、世界中の主要ホールの音響設計までを担当。僕なぞ子供のころ、日本人は畳と木造の家に住んでいるから、クラシック向きの耳ができていないんだ、などと言われたものでしたが、気づいてみると世界中のホールの響きが日本人の耳で作られているわけです。なんと誇らしく、素晴らしいことでしょう ! というところで、本題の前に字数が尽きてしまいました。文:上杉春雄#24 木造音楽室設計の基本5原則 その1information上杉春雄 デビュー25周年記念コンサート 《時を聴く》曲/J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ/クセナキス:ヘルマ/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番/ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」からの3楽章/ショパン:ピアノ・ソナタ第3番★10月8日(火)・旭川大雪クリスタルホール、15日(火)・札幌コンサートホールKitara、28日(月)・紀尾井ホール、11月2日(土)・兵庫県立芸術文化センター(小)問:音楽事務所サウンドギャラリー03-3398-5631※詳細はWEB(www.uesugi-h.jp)でご確認くださいphoto by Takahiro Hoshiai1988年にサントリーホールでデビュー・リサイタルを行い、東芝EMI(現EMIミュージック・ジャパン)より4枚のアルバムを発売。オーケストラ・アンサンブル金沢、東京フィル、読売日響などのオーケストラや、池辺晋一郎、川本嘉子らと共演、NHK「芸術劇場」でも活動が紹介される。バッハの平均律全曲演奏会は高い評価を得た。東京大学大学院修了。医学博士。HP:http://www.uesugi-h.jp/うえすぎ・はるお221

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です