eぶらあぼ 2013.9月号
49/191
46 日本では数少ない充実した研修スタイルをもつサントリーホール オペラ・アカデミーは発足20周年を迎える今年、アカデミーの精鋭たちによるオペラ公演としてモーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》を、よこすか芸術劇場とサントリーホールのブルーローズで上演する(セミ・ステージ形式)。 同アカデミーからは、すでに何人もの国際的に活躍する歌手が輩出されている。テノールの櫻田亮もその一人。今年春にイタリアから帰国し、本格的に日本へと活動の拠点を移した。バロック・オペラのスペシャリストでもある櫻田だが、フェッランド役は、重要なレパートリーだという。 「この役を歌う上で一番難しいのは、フェッランドの感情表現がとてもドラマティックに描かれていることですね。喜劇的に見せるところもあれば、若者の直情的な感情を前面に出さなければならないところもある。ぼくの印象では、フェッランドは一本気な男なのだと思っています。だからその分、最初は軽い気持ちでアルフォンソとの賭けに乗ったのに、いつの間にか“遊び”の延長なのか本当の恋愛なのかがわからないほどのめり込んでしまうというタイプ。後半になるにしたがって、フェッランドの感情の激しさは増していきます。でも、《コジ〜》は、代表的なアンサンブル・オペラですからね。ドラマティックな感情表現に引っ張られて重唱の方をおろそかにするわけにはいかない。このバランスをとることにはとても気をつかいます」 全曲のうち半分以上が重唱で書かれているこのオペラでは、楽器のアンサンブルとは異なる、声が生みだすハーモニーそのものを楽しんでほしいと語る。 「それに加えて重唱は、どの声を立たせるかという点が指揮者の力量の見せ場ともいえます。今回、ジュゼッペ・サッバティーニさんが指揮をするのはスケジュールの関係で横須賀だけになりますが、彼は台本のすみずみまでを研究していて、6人の個性的なキャラクターについてもアイディアをたくさん持っているのですよ。音楽の素晴らしさとともに、台本の面白さもお客さまに届けられるように、時間をかけて準備ができるのも、この公演の良いところだと思っています」 字幕がつかないこの公演では、ストーリーや場面を紹介する朝岡聡のナビゲーションも重要なポイント。櫻田いわく「お客さんをうまくステージに乗せてくれるという感じ」。 《コジ・ファン・トゥッテ》では、紆余曲折を経た2組のカップルがどのような結末を迎えるかは演出次第、同じ演出を見ても、納得するか否かは十人十色だ。はてさて今回はいかに?!取材・文:吉羽尋子サントリーホール オペラ・アカデミー公演《コジ・ファン・トゥッテ》 セミ・ステージ形式★9月21日(土)・よこすか芸術劇場問 横須賀芸術劇場046-823-9999★9月29日(日)・サントリーホールブルーローズ(小)※問 サントリーホールチケットセンター 0570-55-0017 ●発売中 ※横須賀公演と一部出演者が異なります。フェッランドは“一本気な男”だと思っています櫻田 亮(テノール)インタビュー 「歌う表現者としての林美智子の変遷を追う」というコンセプトで2008年にスタートした、王子ホールの「Player」シリーズ。これまでのテーマも、「ズボン役」「後期ロマン派歌曲」「武満徹」「ベルエポック」と、彼女の魅力を多角的に見つめてきた企画だ。その5回目は「愛に生きる女性たち」と題して、フランス・オペラのヒロインに焦点を当てる。コンサートはゲーテの『ファウスト』つながりの2作から。グノー《ファウスト》でズボン役・シーベルが歌う〈花の歌〉と、ベルリオーズ情熱的かつ濃厚な愛の世界林 美智子 Player Vol.5 フランス・オペラより〜愛に生きる女性たち《ファウストの劫罰》のマルガレーテのアリアを2曲。マルガレーテと、彼女に恋する若者の両方を、続けて演じることになるのは面白い。プログラム後半はビゼー《カルメン》とサン=サーンス《サムソンとデリラ》という、フランス・オペラを代表する二人のヒロインが登場。情熱的で濃厚な愛の世界に浸りたい。ピアノには今回も、オーケストラ級の振幅の表現を聴かせる河原忠之を迎えて万全!文:宮本 明★10月11日(金)・王子ホール ●発売中問王子ホールチケットセンター03-3567-9990 http://www.ojihall.jpⒸKohei TakeⒸRibaltaluce
元のページ