コンポージアム2014  ペーテル・エトヴェシュを迎えて

時代を築いた音楽、これからを築く音楽

 時代を代表する作曲家が、自らの審美眼のみによって受賞者を選ぶ作曲コンクール「武満徹作曲賞」。このコンクールを核とする同時代音楽企画が『コンポージアム』だ。16回目となる2014年度は話題作を矢継ぎ早に発表し、指揮者としても活躍するペーテル・エトヴェシュが登場する。
 エトヴェシュはシュトックハウゼン・アンサンブルのメンバーとして、またブーレーズの設立したアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めるなど、現代音楽の第一線を走り続けてきたが、1990年代には管弦楽曲「アトランティス」やオペラ《三人姉妹》の成功で作曲家としても知られるようになった。電子音楽にはじまる欧州前衛運動に身を投じる中で、テクノロジーと音や身体の可能性について実践的な知見を得たエトヴェシュは、それを精神の基底へと沈潜する思索と結びつけ、いま、豊かな果実を次々と産み落としている。
 5月22日の『ペーテル・エトヴェシュの音楽』(エトヴェシュ指揮N響)では、いずれも日本初演となる自作3作品に先駆者ともいうべき同郷人リゲティの2曲が組み合わされ、ハンガリーの雄大な血脈を浮かび上がらせる。独創的なアイディアでオーケストラを躍動させるエトヴェシュの筆致は、終始聴き手をとらえて離さない。今回はとりわけ超絶技巧を持つパーカッショニスト、マルティン・グルービンガーのために書かれた最新作「スピーキング・ドラム」に大注目だ。独奏者は言葉と音、発語とパルス、身振りと音色といった要素をアクロバティックに交感させながら、太鼓を打ち鳴らすシャーマンと化していく。
 さて「武満徹作曲賞」の審査だが、今年は31ヵ国から108作品の応募があり、5月25日の本選会(杉山洋一指揮東京フィル)には選りすぐりの4作品が上演される。審査にあたっては、新しいアイディアやテクニックを内包していること、上演においてカリスマ性があって聴衆との対話が成り立つこと、音楽的メッセージが独創的で文化的ルーツがはっきりわかること、などを重視したという。お決まりの型やルーティンワークを嫌うエトヴェシュのこと、こちらもユニークな本選会になるに違いない。ファイナリストの年齢はいずれも30代前半から半ばにかけて、そして出身国もタイ、ドイツ、日本、イタリアと多岐にわたる。タイトルはこの順に「覚醒/寂静」「ブラック・ボックス」「北之椿—親和性によるグラデイション第2番—」「かくて海は再び我らを封じた」。どれも詩的なイメージの音楽を展開してくれそうだ。若く柔軟な感性が、新しい発見と知的興奮の旅へといざなってくれるだろう。
 なお5月21日には関連公演として、エトヴェシュの講演と室内楽作品の演奏からなる『ペーテル・エトヴェシュの室内楽』が催され、三島由紀夫の自決に想を得た初期の「Harakiri」などが日本初演される。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2014年5月号から)

(C)Marco Borggreve
(C)Marco Borggreve

ペーテル・エトヴェシュの音楽 ★5月22日(木)
2014年度武満徹作曲賞本選演奏会 ★5月25日(日)
会場:東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
http://www.operacity.jp

関連公演:ペーテル・エトヴェシュの室内楽
★5/21(水)・東京オペラシティ リサイタルホール
問:オカムラ&カンパニー03-6804-7490