【WEBぶらあぼ特別インタビュー】吉松隆(作曲)自作を語る〜新譜インタビュー

 当代屈指の人気作曲家・吉松隆の12年ぶりの新作交響曲=第6番「鳥と天使たち」が、CDリリースされた。今回は、約50分の大作だった第5番に比べると短い、1管編成のコンパクトな作品。「CD5枚分の音楽を書いた。これってベートーヴェンの交響曲全集と同じですよ(笑)」と語る2012年のNHK大河ドラマ『平清盛』の反動か?はたまた連動か?

「小編成で書きたいとの気持ちは前からあったのですが、2回ほど流産してしまった。そこにいずみシンフォニエッタ大阪から委嘱の話が来て具体化しました。大河ドラマもテーマ曲以外は1管編成のオーケストラ曲が多い。なので大河で使えないポップな素材がここに集結したといった感じです」

 テーマは、「<鳥>と<天使>が描かれた夢の中の『音のおもちゃ箱』」だ。

「元々デビュー作が<天使>。天使は人間に近いですし、キリスト教的な天使ではなく、“座敷わらし”のようなイメージです。その次が<鳥>のシリーズ。鳥は人間とは関係のない音で鳴きます。この両方をテーマにしたのは今回が初めてですね。そうした最初の自分に戻る意味もありますし、還暦を迎えて押し入れを開けたら、子供の頃遊んでいたおもちゃ箱が出てきた…みたいなイメージもあります。ですから、『今度はこれが出てくるのか!』といったおもちゃ箱的な面白さを聴いていただきたい。それに『おもちゃ箱みたいな音楽』は昔からの理想でもあるんです」

 各楽章のタイトル=「右方の鳥」「忘れっぽい天使たち」「左方の鳥」は、大河ドラマの取材で京都を歩いているときに「一の酉、二の酉…という言葉から思いついた」という。

「左右の鳥の真ん中に天使=菩薩がいる。あくまで3つの並びで、キリスト教的な4楽章ではなく、音質的にも雅楽的な部分があります。それに『左方の鳥』には、酉にさんずいを付けると酒になる=左利き(酒飲み)との洒落にもなっています(笑)」

 また楽譜を見ると、変拍子が異様に多いし、色々な作曲家の第6番のフレーズも登場する。

「リハのとき強く言ったのは『笑わないでくださいね』でした(笑)。チャイコフスキー、シベリウス、ショスタコーヴィチ、ベートーヴェンなどの6番が出てきますし、私の自作の断片もかなり登場しますので、知識がある方にはその面白さを、そうでない方には、中身がころころ変わる音楽を楽しんで頂ければと思います。あと楽譜のPDFも出ますので、これで引用曲を探してもらってもいい」

 本作は、飯森範親指揮/いずみシンフォニエッタ大阪の2013年初演時のライヴ録音。

「1管だと楽器が素になるので、怖いところもあるのですが、皆上手いので、抒情的に仕上がりました。もっとチープに響くかと思っていましたが、ホールの効果もあるのでしょうね。それによく鳴る感じで1管には聴こえない。聴いていて2管編成版を作ろうかと思ったほどです。いずれにせよ私は、作品がCDになるのは実演より嬉しいんです。一度音になってしまえば、いつでもどこでも聴けますから」

 吉松にとって交響曲の位置づけは?

「1番役にたたない、誰にも望まれないもの。にもかかわらず全身全霊をかけて作るというギャップが凄いと思う。それに理念や真理などの青臭い考えや、ベートーヴェン以来のもてない男の怨念(笑)から生まれるのが魅力的でもありますね」

 カップリングは、2010年作のマリンバ協奏曲「バード・リズミクス」。本作はつまり、吉松の最新のオーケストラ曲2曲の組み合わせだ。

「こちらもおもちゃではありますが、アフリカ的なリズムがどこまで強力に出せるかがテーマ。ただ楽器自体は、アフリカが原点であり、キューバ音楽や20世紀的な音楽の主流でもある、その両方の要素が妙味。また後半はラテン音楽的な要素も入っています。まあ暑くて頭が沸騰しているときに書きましたし、最初は木琴だから『モッキンバード・コンチェルト』にしようかと。後で『アベノミクス』なる言葉を聞いて、モッキンバードでも良かったなと思いましたよ。それからヴァイオリンが曲の半分以上ピッツィカートで弾く。こんな曲はないですよね」

 曲は、三村奈々恵の委嘱で書かれた。

「30分位ある複雑な曲なのに、彼女はリハの最初からずっと暗譜でしたから、凄いと思いましたね。4回続けて本番があったのですが、終わると必ずブラボーの声が出てお客さんが総立ちになりました」

 また4公演の内、山形交響楽団の定期の2日目の音源にこだわったという。

「最後の部分で金管の人たちが『立っちゃいましょう!』という熱いノリを展開し、大受けに受けた。終わりに向かうこの弾け方をぜひ聴いてもらいたいと思い、無理矢理採用してもらいました」

 ちなみに最初期のピアノ曲を集めたCD「優しき玩具」(ピアノ:河村泰子)も同時リリースされたので、こちらも注目されたい。
 今後は「心の師シベリウスと同じく、交響曲第7番までは書きたい」との由。乞うご期待!

(取材・文:柴田克彦 撮影:M.Terashi/TokyoMDE)


 

 

■CD情報
吉松隆:交響曲第6番≪鳥と天使たち≫ マリンバ協奏曲≪バード・リズミクス≫
COCQ-85061 日本コロムビア
¥2,800+税

・交響曲 第6番≪鳥と天使たち≫ 作品113
Symphony no.6 “Birds and Angels”, op.113 (2013)
飯森範親 指揮 いずみシンフォニエッタ大阪
(いずみシンフォニエッタ大阪委嘱新作・初演)

2013年7月13日、いずみホールにおける
いずみシンフォニエッタ大阪第31回定期演奏会のライヴ録音
[コロムビアによる96kHz/24bit録音]

・マリンバ協奏曲≪バード・リズミクス≫ 作品109
Marimba Concerto “Bird Rhythmics”, op.109 (2010)
三村奈々恵(マリンバ)
飯森範親 指揮 山形交響楽団

2011年1月23日、山形テルサホールにおける
山形交響楽団第210回定期演奏会の記録用ライヴ録音

吉松 隆:優しき玩具/河村泰子
CMCD-28303 カメラータ
¥2,800+税

・優しき玩具 第1集 (1972)
・優しき玩具 第2集 (1974)
・優しき玩具 第3集 (1983/85)
・あごのはずれた小さなソナチネ (1973)

河村泰子(ピアノ)
録音:2013年11月/コピスみよし(埼玉)

■吉松隆 交響曲工房
http://homepage3.nifty.com/t-yoshimatsu/

■ASKS Orchestra(吉松隆作品ほか譜面販売)
http://asks-orch.com