ウェン=シン・ヤン(チェロ)

キーワードは“転移”です

(C)www.wildundleise.de
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 豊潤な音色と完璧な技巧、何よりも深い音楽性で聴衆を魅了するチェロの名手ウェン=シン・ヤンが、Hakuju Hallの人気シリーズ《ワンダフル one アワー》に登場。今回は、スイス人作曲家フーバーによる無伴奏作品「無限の転移」(1976)を核に据え、シューマン「民謡風の5つの小品」とショスタコーヴィチのソナタを配した、密度の濃いプログラムを聴かせる。
 これまで同ホールへ3度登場し、バッハなど無伴奏で名演を披露したヤン。「今までの無伴奏と、今回のステージとの架け橋になるように『無限への転移』を中心に。シューマンの洗練された旋律は、後に続くフーバー作品への新しい響きへの“転移”を、さらに、ショスタコーヴィチへの“転移”をも、そっと後押ししてくれます」と説明する。
 共演の占部由美子は、ミュンヘン音楽大学で多くのクラスの伴奏ピアニストを務め、同大の教授を務めるヤンとは同僚。
「彼女は、私の授業でも素晴らしい伴奏を務めてくれています。レパートリーは広く、私は何度も室内楽で共演し、音楽の愉悦を共有してきました。今回の共演も、たいへん光栄で、幸せに思います」
 ところで、魅力的な音色を生むコツとは。
「技巧や自己制御は、音楽的解釈を表現する手段に過ぎません。ずっとその修練に明け暮れ、今もそれを怠りませんが、聴衆は技術の披瀝ではなく、演奏家固有の表現や解釈に期待しているのだと、常に肝に銘じています。そして、指や弓を動かす前に、自分は皆さんに何を伝えたいのか、明確に頭に描くのです」
 9歳の頃、チェロを始めた。
「素晴らしい先生に巡り合えたことが、大きかった。課題の曲を練習し、彼女のピアノに合わせて弾くのが、楽しみで…。子供には、たとえ技術の修練でも、音楽を楽しむことが重要です」
 そして今、自らも後進の指導に力を注ぐ。
「競争は激化し、高度な技術も要求される厳しい時代。でも、音楽への情熱があるなら、迷わず挑戦し、色々と吸収してほしい。その経験は、決して無駄にはならないでしょう」
 ここ数年、特に19世紀の技巧的な作品の発掘に力を傾注している。
 「技術的・音楽的に得るものが大きい。若い人にもぜひ、取り組んでほしいですね」
 最後に「自分にとって音楽とは」と尋ねると、「人生であり、情熱。自分の愉悦であると同時に、音楽とその将来に、大きな責任をも負っています。私の使命は、音楽という素晴らしい贈り物を、聴衆に届け続けることだと思っています」と、素敵な答えが返ってきた。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2014年3月号から)

ワンダフル one アワー 第9回
★4月17日(木)15:00 19:30・Hakuju Hall Lコード:35153
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp