青柳 晋 (ピアノ)

シューベルトの想念に迫る

(C)Kenshu Shintsubo
(C)Kenshu Shintsubo

 青柳晋の自主企画リサイタルシリーズ《リストのいる部屋》が、今年で8回目を数える。リストを“ホスト”として、毎年1人の作曲家を“ゲスト”に迎えるというコンセプトのもと、青柳がその年に演奏したいと感じる作品ばかりを取り上げてきた。
 今年のゲストはシューベルト。これまで一度もメインプログラムに入れたことはなかったが、今、自らの手で音にしたいという気持ちが強くなったのだという。
「作曲家のすばらしさを実感する1つの要素として、死生観がどう作品に表れているかがあります。昨年はフォーレを取り上げましたが、長命だった彼の死生観に触れているうちに、その半分以下しか生きることのできなかったシューベルトは、30歳そこそこで死を目前にどんな想いを抱いていたのか考えるようになり、後期の作品をひも解いてみようと思ったのです」
 前半では、そんなシューベルトが死の年に完成させた「楽興の時D780」、「3つのピアノ曲D946」を取り上げる。
「後期作品には、彼が死に対して感じていた恐怖や無念が反映されています。いわば、生の世界と死後の世界の垣根を取り除くべく、自分のために作った音楽のように感じられるのです」
 続く後半の冒頭にはシューベルトの歌曲をリストが編曲した作品を置き、リストの世界へと移っていく。
「まずは学生の頃から大好きだった『君こそわが憩い』を選び、そこから調性やコントラストを考慮して選曲しました。後半1曲目に弾くのは、不安定で根が生えていない、ジプシー的な概念を体現する『さすらい人』。これは、ロマン派を語るうえで骨となる言葉です。『さすらい人幻想曲』の原曲でもありますね。シューベルト自身の作品はもちろん、さまざまな作曲家に影響を与えた歌曲だと思います」
 死の世界にまっすぐ向き合う作品のあとには、リストの「2つの伝説」を合わせる。
「リストの最晩年の作品には懐の深さを感じ、演奏していてとても楽な気持ちでいられます。『2つの伝説』で、シューベルトの作品が持つ沈んだ悲しみを浄化して終わる形にしたいと思いました。東日本大震災以降、演奏会は必ず希望が持てる曲で終わりたいと感じるようになり、プログラムの組み方が少し変わりましたね」
 40代半ばにさしかかり、シューベルトやショパンなど短命の天才に対しては、ただ畏れるだけではなく包容力を持った演奏ができなければならないと感じているという青柳。一方、長命で膨大な数の作品を遺したリストには、今後も胸を借りてさまざまな作品に取り組みたいと語る。
 ピアニストが新たな境地に立つほどにメッセージが深まっていく、意欲的なシリーズ。今後の展開も楽しみだ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2013年12月号から)

自主企画リサイタルシリーズ 《リストのいる部屋》 Vol.8
★12月25日(水)・浜離宮朝日ホール Lコード:34383
問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp