マリアンネ・コルネッティ(メゾソプラノ)

ウルリカは《仮面舞踏会》のキーパーソンです

 ヴェルディの劇的な役柄で世界中から引っ張りだこのメゾソプラノ、マリアンネ・コルネッティ。5、6月の新国立劇場《ナブッコ》では猛女アビガイッレで大成功を収めた彼女が、今秋のトリノ王立歌劇場来日公演では《仮面舞踏会》の占い師ウルリカを演じる。
「日本の皆様は全身全霊を傾けて聴いて下さいます。3月の《アイーダ》では裁判の場で場内がシーンとなり、アムネリス役の私も身震いしました。メゾのパートはピアノのフレーズが案外少ないので、貴重な瞬間に皆様を引き込むべく、集中力の塊となって歌い上げました。一方、アビガイッレはソプラノの役ですから、猛々しい響きが続いても、メゾとは声域が違い、全体的に高いのです。マリア・カラスはかつて『声はエレベーターじゃない。急に上がったり下がったり出来ない』と言ったことがあります。まさにその通り。声域の異なる役に移る際は、練習を慎重に繰り返しながら、どこの筋肉を使って必要な音を出すのかを身体に思い出させます。アムネリスからアビガイッレだと喉の準備期間に1ヵ月近く要りますし、ウルリカに向けても、同じく地道な調整の日々ですね」
 ここで話がウルリカ役の解釈に進む。
「ウルリカの出番は全体で20分ぐらいですが、まさに《仮面舞踏会》のドラマを動かすキーパーソンです。あの場のウルリカには確かに超自然的な力が降りてきていると思います。五線下のG音を響かせるのもトランス状態の象徴でしょう。だから権力者リッカルドの地位も手相ですぐ言い当てます。ただ、この時の彼女には『口には出来ない真実』も見えていたのではないでしょうか。アメーリアには『怖ろしい場所に行く勇気があるか?』と挑戦的に問いかけ、リッカルドには、身に迫った危険として『最初に握手した者の手で殺される』と告げますが、2人の愛については、運命の流れとしてそれ以上言わずにおいたのでしょう。人生には避けられることと避けられないことがありますので、私はそう解釈しています」
 ちなみに、コルネッティ自身もかつて手相を観てもらい、衝撃的な予言をされたという。
 「21歳の時に『貴女は舞台人だね。58歳で結婚するよ』と言われたのです。でも何でそんなこと知ってるの!?(爆笑)。その年齢にもそろそろ近づいてきました・・・トリノの《仮面舞踏会》には何度も出演していますが、演出家が細部を少しずつ手直し練り上げてきた極上のプロダクションだと思います。人間関係が判りやすく、配色も上品で綺麗です。ぜひご覧下さいね!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2013年7月号から)

トリノ王立歌劇場 ヴェルディ:《仮面舞踏会》
★12月1日(日)、4日(水)、7日(土)・東京文化会館
問ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp
 ローソンチケット0570-000-407 http://l-tike.com/torino2013
 テレビ東京チケット事務局03-3435-7000

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