寺神戸 亮 (指揮)

名作オペラを当時のサウンドで愉しむ

 《フィガロの結婚》のテーマはいつの世にも変わらぬもの。つまりは「横暴な上司に“倍返しする”部下」である。だから、どんな上演スタイルでも愛される人気作。今回はバロック演奏の第一人者、寺神戸亮が「18世紀の音」でこのオペラを追究する。
「モーツァルト後期のオペラは比類なき傑作ぞろいですが、特に《フィガロの結婚》は息もつかせぬどんでん返しの連続で飽きさせず、作曲家の鋭い人間観察と描写に心打たれます。笑いや風刺の中にもモーツァルトが貫き通した人間愛に感動させられます」
 この名作を「18世紀の音」で楽しむ醍醐味とは?
「演奏において楽器は道具にすぎませんが、音楽に合った道具を使えばよりその本質に近づきやすくなると実感しています。モーツァルト時代の楽器は現代のものに比べて倍音が多く、合奏になるとより透明感が出ます。そのため、楽器同士が溶け合って新しい音色を生み出し、歌声ともよく混じりあいバランスも取りやすいのです。ピッチはA=430Hzです」
 モダン楽器での『ピリオド風』演奏も広まっているが、それとの違いはどこに?
「確かにモダン楽器でのノンヴィブラートの演奏も抵抗なくこなせるようになってきましたが、やはりガット弦にはガット弦の音があり、ベーム式フルートとトラヴェルソ・フルート、ナチュラルホルンとバルブホルンの音色の違いも歴然です。時代の演奏習慣や背景も考慮した上で演奏内容について深く語るなら、『ピリオド風』という言葉では言い尽くせないものがあります」
 11月の公演はキャスティングの妙も注目の的。
「アルマヴィーヴァ伯爵は『北とぴあ国際音楽祭』ではお馴染みのフルヴィオ・ベッティーニさん。圧倒的な歌唱力とエスプリの効いた演技が武器です。伯爵夫人にはスウェーデンの歌姫クララ・エクさん。透明感のある美声の持ち主です。題名役の萩原潤さんは誠実な歌唱で光る人。これまで伯爵が持ち役で今回が初のフィガロ役だそうです。スザンナにはロベルタ・マメリさん。伸びやかで明るい歌声とチャーミングな演技が役にぴったりだと思います。ケルビーノは波多野睦美さんです。一見、意外に思えるかもしれませんが、あの名アリア〈恋とはどんなものかしら〉で少年の色気を巧みに表現できるのは彼女以外に考えられません。今までにない歌を聴かせてくれるでしょう。抜群のチームワークで最高の《フィガロ》を創り上げます!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2013年11月号から)

北とぴあ国際音楽祭 2013
歌劇《フィガロの結婚》 セミ・ステージ形式
★11月22日(金)、24日(日)・北とぴあ
問 北区文化振興財団03-5390-1221
http://www.kitabunka.or.jp