雲井雅人サックス四重奏団

“夢の時間”を描く

1996年の結成以来、美しいハーモニーが多くの支持を得ている雲井雅人サックス四重奏団。サックス界のベテラン・雲井雅人と、3人の弟子たちで構成されているグループだ。10月に発売される新譜は、過去にも初演を数多く手がけるなど、長年にわたり親交の深いアメリカの人気作曲家デイヴィッド・マスランカに新作を委嘱。2010〜12年に作曲され、演奏に40分以上も要する大作「ソングス・フォー・ザ・カミング・デイ〜来たるべき日への歌〜」(全9楽章)の世界初録音を行った。その概要を、ソプラノ・サックスの雲井が次のように語ってくれた。
「“政治的にも環境的にも混沌とした現代社会で、クリエイティヴな流れの先駆けになるのが音楽”というのが本作のコンセプト。これまでにも宗教作品をモチーフにすることが多かったマスランカ先生らしく、独創的な“夢の時間”を描く上で、3つの楽章に古いキリスト教の賛美歌が使われています」
アルバムを聴くときは、「できれば全楽章を通して聴いて欲しい」と、テナー・サックスの林田和之。
「過去のマスランカ先生の作品に比べ、音数がより少ないのが魅力であり、同時にそれが難しさでもあります。和声もテンポも静謐な時間が続くのですが、ラストを目前にした第8楽章で突然感情が大爆発して疾走し、第9楽章で平穏な世界に戻っていく。そんな尋常ならざる衝撃がなぜ生まれるのかを、細切れではなく、大きな流れの中で感じてください。また、その後ボーナス・トラックに入った村松崇継さんによる『生命の奇跡』を聴くと、先生と村松さんの相性の良さもよくわかるはずです」

右から時計まわりに:林田和之、雲井雅人、佐藤渉、西尾貴浩
右から時計まわりに:林田和之、雲井雅人、佐藤渉、西尾貴浩

マスランカから、J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」をサックス四重奏用に編曲した楽譜も贈られた彼ら。昨年9月に「Songs〜」と同時に初演済みで、その録音も待ち遠しい。そして10月には当盤の発売記念を兼ねた定期演奏会も開催。アルト・サックスの佐藤渉によると、「来たる〜」は抜粋で演奏予定だという。
「それぞれソロの仕事もあり、定期演奏会は“3年に2回”くらいのペース(笑)。『来たる〜』は、3〜4つの楽章を抜粋するつもりです。まだ具体的に決まっていませんが、第8楽章は確実に入ると思います」
今回は、ジャズ・サックス奏者の三木俊雄がゲストに登場。「クラシカルな活動が中心の僕たちにとって新たな挑戦」とは、バリトン・サックス西尾貴浩の弁。
「昔一度だけ共演した時に、とてもよくハモった五重奏になって。待望の再共演が実現しました。今回は後半がウィバニー、ミンツァー、三木さん自作のジャズ・プログラム。“インチキ・ジャズ”と言われないようにガッツリやりますよ!(笑)」

取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ2013年10月号から)

雲井雅人サックス四重奏団
第11回定期演奏会
〜三木俊雄氏を迎えて〜
★10月8日(火)・ヤマハホール
問:ヤマハアトリエ東京03-3574-0619
http://www.yamaha.co.jp/yamahaginza

【CD】
『マスランカ:ソングス・フォー・ザ・カミング・
デイ〜来たるべき日への歌〜』

ユニバーサルミュージック
TYCE-85001 ¥3000
10月9日(水)発売