田部京子(ピアノ)

25年を振り返る、思い出深い選曲

C)Akira Muto
 繊細なタッチと瑞々しい響きで聴き手の心をつかむ田部京子。今年は彼女のCDデビュー25周年に当たる。ショパン作品集の発表以来、30枚以上のアルバムを作り続けてきた。
「初めてのレコーディングは今でも鮮明に覚えています。自分で演奏中に聴いていた音と、モニタールームで聴く録音とのギャップにかなり驚きました。マイクはとても鋭敏に音を拾うことを知り、一音たりとも意志のはっきりしない音があってはいけないと、洗礼を受ける思いでした」
 シューベルト7枚のほか、ブラームスやメンデルスゾーン、シューマンといったドイツ・ロマン派ものを多くリリースしてきたが、直近5枚のうち3枚はモーツァルト。協奏曲のライヴ録音にも積極的に取り組んでいる。9月の日本フィル(藤岡幸夫指揮)のコンサートでは、一晩で協奏曲を2曲演奏するが、前半はモーツァルトの第21番で、自作のカデンツァも披露する。後半はグリーグの協奏曲だ。
「グリーグは若い頃からオファーが多く、私にとって最も演奏回数の多い協奏曲ですが、モーツァルトとの組み合わせ、そして集中力の増す後半で演奏するのは新鮮。いつもとは違う感覚で弾けるのではと楽しみです」
 同曲は6月に小林研一郎指揮・東京交響楽団と演奏したライヴ録音のCDがまもなくリリースされる。
 一方、12月の25周年記念リサイタルでは、思い入れの深い3曲をプログラミングした。
「ショパン『前奏曲 op.45』は、デビュー盤で録音した作品。久々に演奏しますが、私の中で熟してきたこの曲への思いを込めたいと思います。同じ調性で続くシューマンの『交響的練習曲』は17歳の時に日本音楽コンクール本選で弾いて以来、デビューなど節目で弾いてきた大切な曲。99年にCDを出しましたが、本当はその3年前に録音をする予定でした。けれどもレコーディング初日に不慮の交通事故に見舞われ頸部を負傷。半年間、演奏活動を休止、ピアノに触れられない辛い日々を過ごしました。復帰後あらためて録音し、思い出深いアルバムとなりました。
 シューベルトのソナタ第21番は、デビューから3枚目のアルバムで、初めて自分の意向で選曲した作品。当時は、魂を削るようにして細部の美しさを追い求めていましたが、歳月とともに常に発見があり、全体を俯瞰して捉えられるようになりました。私にとってライフワークとも言える曲です」
 今後は北欧やフランスのレパートリーも視野に入れながら、過去に録音した作品も改めてレコーディングしたいと話す。
「人生は有限、優れた作品は無限。時に新風を交えながら録音を続けたいと思います」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年10月号より)

日本フィルハーモニー交響楽団 コンチェルト × コンチェルト!! Vol.2
2018.9/28(金)19:30 東京芸術劇場 コンサートホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911/カジモトイープラス0570-06-9960
http://www.japanphil.or.jp/

CDデビュー25周年記念 田部京子 ピアノ・リサイタル(シューベルト・プラス特別編)
2018.12/19(水)19:00 浜離宮朝日ホール
問:カジモトイープラス0570-06-9960 
http://www.kajimotomusic.com/

CD
『グリーグ:ピアノ協奏曲 他』
オクタヴィア・レコード
OVCT-00150(SACDハイブリッド盤)
2018.9/26(水)発売