第29回 パシフィック・ミュージック・フェスティバル

今年もバーンスタインと共にある音楽祭


アカデミー生は音楽界の“財産”

 札幌の夏を彩る国際教育音楽祭「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」。国内外のトップアーティスト、ファン憧れのオーケストラ・プレイヤーも続々登場するが、PMFの主役は、世界各地でのオーディションによって選ばれたアカデミー生。この次代を担うであろう若者たちによる「PMFオーケストラ」の公演が国際教育音楽祭の華となる。もはや彼らは音楽界の“財産”といってもいいだろう。
 PMFは1990年、今年生誕100年を寿ぐレニーことレナード・バーンスタイン(1918〜90)の提唱により始まった。米タングルウッド音楽祭、独シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭に関わってきたレニーは、第1回PMFでのスピーチで「残された時間を若者の教育に捧げたい」と宣言。PMF、ロンドン響、ボストン響(タングルウッド音楽祭)でタクトを執った後、その年の10月に天に召された。

五嶋みどりのソロで聴く「セレナード」

 2018年、PMFオーケストラは作曲家バーンスタインの調べとともにある。「キャンディード」序曲、「ウェストサイド・ストーリー」序曲(7/7 札幌芸術の森・野外ステージでのオープニング・コンサート)、交響曲第1番「エレミア」(7/14 苫小牧市民会館、7/15 札幌コンサートホールKitara)、バレエ音楽「ファンシー・フリー」、プラトンの『饗宴』による「セレナード」、交響曲第2番「不安の時代」(7/21,7/22 札幌コンサートホールKitara)とレニーの佳品が並ぶ。「セレナード」のソロは五嶋みどりだ。
 入場無料のオープニング・コンサートに登場するアメリカ仕込みの若きマエストロ原田慶太楼、バーンスタインの薫陶を受けたジョン・アクセルロッドが腕をふるう「エレミア」への楽しみも尽きないが、やはり五嶋みどりの登場に胸ときめく。
 1986年夏のタングルウッド音楽祭。10代前半だった彼女は、バーンスタインのタクトに導かれ「セレナード」を弾いた。弦を2回切るというアクシデント(ただちにコンサートマスターと楽器を交換、サイズも違った)にもめげず、圧巻・渾身のパフォーマンスを披露。感極まり、彼女を抱きしめるレニー。そう、これがアメリカの小学校の教科書にも載った「タングルウッドの奇跡」だ。あれから32年。すでに“レジェンド”といっても過言ではない五嶋みどりが「セレナード」を弾く。才人エドウィン・アウトウォーターの指揮、腕自慢の才媛・俊英が顔を揃えたPMFオーケストラの演奏も、きっと冴えるだろう。このステージは何としても体感したいところだ。ピアノ・コンチェルトの性格が強い交響曲第2番「不安の時代」を交えたオール・バーンスタイン・プログラム。作曲家バーンスタインの魅力、再発見のライヴが近づいてきた。

ラスト3公演には、芸術監督のゲルギエフが登場

 そして終盤に、あのマエストロがやってくる。札幌(7/29 札幌コンサートホールKitara)、広島(7/31 広島国際会議場フェニックスホール)、東京(8/1 サントリーホール)のラスト3公演に登場するのは芸術監督ワレリー・ゲルギエフ。今年のメインディッシュはマーラーの交響曲第7番だ。110年前にプラハの博覧会で初演された、実は華やかなマーラーの長編もさることながら、ロサンゼルス・フィルの首席フルート奏者デニス・ブリアコフが吹くバーンスタインの「ハリル」が待ち遠しいという方もいらっしゃるのでは。レニーは「ハリル」をとても愛していた。
 豪華教授陣によるアンサンブルが、また楽しい。選曲からして魅せるPMFウィーン、PMFベルリン、PMFアメリカ(北米メジャー・オーケストラのスターが勢揃い)のライヴを、どうぞお忘れなく。
 こうしたステージに加え、教育セミナーに公開マスタークラス、オープンリハーサル、市民ロビーコンサートも開催される。国際教育音楽祭PMFのメニューは多彩だ。
文:奥田佳道
(ぶらあぼ2018年7月号より)

2018.7/7(土)〜8/1(水) 札幌、苫小牧、函館、奈井江、広島、東京
問:パシフィック・ミュージック・フェスティバル組織委員会011-242-2211
http://www.pmf.or.jp/