モイツァ・エルトマン(ソプラノ)

新時代のディーヴァが贈る魅惑の歌曲


 可憐な響きの持ち主ながら、熱いチャレンジ精神も有するソプラノ、モイツァ・エルトマン。ドイツに生まれ、幅広いレパートリーを誇り、最近ではシチェドリンの新作モノ・オペラ《クレオパトラと蛇》で、ネトレプコの代役として歌い、大指揮者ゲルギエフを驚嘆させた名花である。そのエルトマンが7月に再来日し、リサイタルを開催するとのこと。抱負のほどをメールで尋ねてみた。
「日本で演奏することは、いつも私にとって大きな喜びです。日本では、コンサートの最中に、客席の皆さまが発する特別な雰囲気と集中力を感じます。それが私には嬉しく、励みになるのです。皆様が今回のプログラムを気に入って下さり、お馴染みの曲だけでなく、未知の歌も発見していただけたら幸いです」
 今回の選曲の特色は、何より、モーツァルトやメンデルスゾーンの歌曲がまとめて歌われること。特にメンデルスゾーンでは、人気の〈歌の翼に〉や2つの〈ズライカ〉も含めて12曲も披露するという。ピアノはゲッツ・ペイヤー。
「メンデルスゾーンの歌曲は日本ではあまり歌われていないですか? 私は彼のリートの抒情性が大好きで、ハープや弦楽四重奏の伴奏で歌ったこともあるくらい、たびたび取り上げています。続いて、モーツァルトの歌曲も9曲歌います。彼も私のお気に入りの作曲家で、〈すみれ〉や〈ラウラに寄せる夕べの想い〉など、皆様ご存じのメロディをたくさん入れました。〈夕べの想い〉は私が最も愛する曲の一つです。なお、コンサートの最後には、モーツァルトのコンサート・アリアを1曲歌います(K.528)。構成が大きくて、オペラ的な性格を持つ一曲ですから、歌曲との良い対比になると思いますよ。それにしても、モーツァルトは本当に素晴らしい曲ばかり。曲選びも絞りづらくて、いまは、全部聴いて下さい! としか言えません」
 ところで、現代曲の分野でも名高いエルトマンが、こうした古典派や初期ロマン派のリートを取り上げる意図について、ここで改めて教えてもらいたい。
「私は現代曲、特にオペラに強い関心を持っていて、来年もヴィトマン作曲の世界初演のオペラ《バビロン》をベルリンで歌う予定なのですよ。現代ものを覚える際は音楽の『まっさらな、新しい空気』を取り込むのに時間がかかりますが、挑戦して成功したときの喜びは何ものにも代えがたいのです! でも一方で、モーツァルトやメンデルスゾーンのような“心の温まる”音楽を歌わずに、歌手人生を歩むことはできないでしょう。私にとって、レパートリーの多様性はとても大切なのです。一所懸命取り組みますので、楽しみになさってくださいね」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年6月号より)

2018.7/3(火)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp/
他公演 
2018.6/29(金)静岡音楽館AOI (054-251-2200)