「OPERA ART ACADEMIA 2018」第2弾を5月17日に開催

 演出家・田尾下哲が主宰する「田尾下哲シアターカンパニー」では、主にオペラ歌手やオペラ公演関係者、オペラファンを対象に4月から「OPERA ART ACADEMIA 2018」を開催している。第2回目の講義は、5月17日(木)に桜美林大学四谷キャンパス(千駄ヶ谷)で行われる。プロローグ「オペラ芸術論2 〜歌唱、演技、表現、私たちの課題〜」と題し、世界標準で考える日本のオペラの課題について岩田達宗(演出家)、加藤昌則(作曲家)、大山大輔(バリトン)、田尾下が登壇し、トークセッションを行う。参加無料(要申込)。

左より:岩田達宗(演出家) 写真提供:大阪音楽大学、大山大輔(声楽家)、加藤昌則(作曲家)

 同企画は、年間を通じてトークセッションやワークショップ等、およそ20回のプログラムを実施することで、あらゆる視点からオペラという芸術表現を見つめ直し、参加者とも具体的なスキルや知識を学び合うことを目的としている。オペラ演出においては田尾下自身の視点に加え、国内外で数々のオペラ作品の演出を手掛ける2人の演出家、岩田達宗と菅尾友が参画する。

 第1回目の講義となった4月26、28日は、今後1年間におよぶ講義のプロローグとして「オペラ芸術論1 〜私たちはどこへ向かうべきなのか?〜」と題したオリエンテーションが開催された。オペラ上演に際して何を問題視しているか、問題点を提示しながら、田尾下が今後のプログラムを以下のように紹介した。
(2018.4/26 桜美林大学四谷キャンパス Photo:M.Terashi/TokyoMDE )

田尾下 哲


■6〜7月に開催予定の「オペラ音楽論」について

 そもそもオペラ演出はどうやって学ぶものなのか?
 オペラ演出は、演出家について演出助手をしながら現場で学ぶものという認識もあると思うが、きちんとシステムだった教育があり、「基礎」というものが存在していると述べた。しかし現状、日本ではオペラ演出の教育システムやきちんとしたベースとなる「基礎」がない。
 田尾下は師匠であるミヒャエル・ハンペからの教えを紹介する。ハンペからはとにかく、「楽譜にすべて書かれている。楽譜を探偵のように読み込み、すべては楽譜から発想をすべき、そして楽譜を視覚化するように」と教えられたという。また「シェイクスピアとギリシア悲劇を何語でもよいのですべて読みなさい」とも教わったという。すべての物語の基礎というのはその2つでほとんど成り立っているといっても過言ではなく、原作を読み込むことで400年以上残っている上質なスタンダートな作品を知り、そして「審美眼」が身につくと語る。
 また、田尾下は「楽譜を視覚化すること」を徹底的に追求することはまだ世界的にも確立されておらず、研究の余地があるのでは、とも語る。現役ではウィリー・デッカー、アンドレアス・ホモキ、シュテファン・ヘアハイムなどいるが、楽譜に書かれている音を使った演出の先駆者は、じつはジャン=ピエール・ポネルであるとした。

 6〜7月に開催予定の「オペラ音楽論」では、ハンペの教えでもあった「楽譜」に着目し、「どのような意図を持って作曲をしているか」、そしてその楽譜にかかれているメッセージを読み解くための「楽曲分析の手法」、「指揮者と演出家の間でどのようなやりとりを行っているか」など、実際に作曲家、指揮者などをゲストに迎えてレクチャーやワークショップを行う。また、「呼吸と声帯の音声生理学」となぞらえ、医学的な見地から歌唱を科学するプログラムも予定されている。


■7〜10月頃開催予定の「オペラ演出論」について

 7〜10月頃開催予定の「オペラ演出論」では、物語を物語るための身体表現や演出について、実際にダンサーや振付家を招いて身体表現について考える。ワークショップのほか、岩田、菅尾、田尾下の3人の演出家が、同じシーンを同じ歌手、同じ稽古時間でそれぞれ演出し、どういうところがどのように違った演出になるのか、はたまた同じような演出になる箇所はあるのか? と非常に大規模で実験的なプログラムも実施する予定だ。
 参考例として1911年のオペラ映画、ドニゼッティ作曲「ランメルムールのルチア」より6重唱の映像(6名がみな正面を向いて、ほぼ演技なしで歌っている、まさに一般的なオペラのイメージの原型)と2006年のザルツブルク音楽祭での《フィガロの結婚》の映像を紹介。この100年の間で、「照明」「字幕」「コンタクトレンズ」「TVモニター」などさまざまなテクノロジーの発展で歌手には自由な動きが可能となり、より演劇的な要素が強くなり、舞台は社交場から「演じ、観る」ものへと変化したと説明する。

NISSAY OPERA2016《後宮からの逃走》の舞台をモデルに解説


■11月〜2019年1月頃開催予定の「オペラ表現論」について

 世界の最先端のオペラ事情を世界的に活躍するゲストよりリアルな情報を聞いたり、「魅せるを識る」と題し「照明」「美術」「衣裳やメイク」での表現について、それぞれ各分野の専門家をゲストに迎え、トークセッションやワークショップを行う。


■2019年2〜3月頃開催予定のスペシャルレクチャーについて

 エピローグとしてスペシャル・レクチャー「オペラの未来」、1年間の総括としてのディスカッションも開催する。


 プログラム詳細は、順次「田尾下哲シアターカンパニー」のホームページ(http://tttc.jp)にて公開する予定。
(※2018.4/15現在のプログラム予定一覧は右の画像(PDF)をクリック)

 

 

 

 

 

■「OPERA ART ACADEMIA 2018」
<プロローグ>
オペラ芸術論 II/トークセッション 
〜歌唱、演技、表現、私たちの課題を考える〜

歌唱、演技、表現等の視点から世界基準で考える日本オペラの課題とは?
各分野の前線で活動するゲストとともにディスカッションする。

参加費:無料
ゲスト:岩田達宗(演出家)、大山大輔(声楽家)、加藤昌則(作曲家)
ナビゲーター:田尾下 哲(演出家/TTTC主宰/桜美林大学芸術文化学群 准教授)

日程:2018年5月17日(木)19:00〜21:00
会場:桜美林大学四谷キャンパス(千駄ヶ谷)1Fホール
   東京都渋谷区千駄ヶ谷1丁目1-12
   JR千駄ヶ谷駅より徒歩6分、東京メトロ副都心線北参道駅徒歩5分
   https://www.obirin.ac.jp/access/yotsuya/

*参加方法*
件名に「オペラ芸術論Ⅱ参加希望」と明記の上、
・お名前
・参加人数
・連絡先(携帯電話・メールアドレス)
info@tttc.jpまでお送りください。

■問:田尾下哲シアターカンパニー03-6419-7302(ノート株式会社内) e-mail:info@tttc.jp
  

【Profile】
●田尾下 哲(演出家・劇作家)

1972年兵庫生まれ、横浜育ち。東京大学工学部建築学科卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。ドイツ人演出家ミヒャエル・ハンペとの出会いを機に本格的に演出を学び、2000年から演出家として活動を開始。03年より新国立劇場に所属し、オペラ・チーフ演出スタッフとして約70以上のプロダクションに参加。アンドレアス・ホモキ、ジョナサン・ミラー、グリーシャ・アサガロフなど世界の第一線で活躍する演出家と協働した。
 2009年、第20回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。同年6月、チューリヒ歌劇場『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』で共同演出家・振付家としてヨーロッパデビュー。これまでの演出作品に、日生劇場「カプレーティ家とモンテッキ家」、新日本フィル「ペレアスとメリザンド」、二期会創立60周年記念公演「カヴァレリア/パリアッチ」、一柳慧新作オペラ「ハーメルンの笛吹き男」など多数。2013年はあいちトリエンナーレ・プロデュースオペラ「蝶々夫人」、2015年は神奈川県民ホール開館40周年記念オペラ「金閣寺」の演出を手掛けた。近年はオペラの演出に留まらず、ミュージカルやストレイトプレイ、映像作品など多彩な作品に携わっている。

●岩田達宗(演出家)
東京外国語大学フランス語学科卒業。大学卒業後、舞台監督集団「ザ・スタッフ」に参加。オペラの舞台製作にかかわる。’91年より栗山昌良氏に演出助手として師事。’96年五島記念文化賞オペラ新人賞を受賞。’98年より2年間、ドイツ、イギリスを中心にヨーロッパ各地を遊学、研鑽を積む。帰国後、本格的にオペラ演出家として活動を始め、各地のオペラ・プロダクションで作品を発表し、高い評価を得る。’03年に堺シティオペラでのプッチーニ作曲「三部作」、’05年いずみホールでのプーランク作曲「カルメル会修道女の対話」は、同年のクリティック・クラブ賞、大阪府舞台芸術賞を受賞。同じく堺シティオペラ「三部作」、’05年愛知万博開催記念オペラ、新実徳英作曲「白鳥」、’12年会津オペラ「白虎」は佐川吉男賞を受賞。’08年愛知県文化事業財団「ファルスタッフ」では三菱UFJ信託音楽賞を受賞。’11年ザ・カレッジオペラハウス公演「ねじの回転」は文化庁芸術祭大賞に輝いた。また2006年には自身が、オペラ演出家として初めてとなる音楽クリティック・クラブ賞を受賞。最近の代表的な演出作品は、藤原歌劇団「ラ・ボエーム」、愛知県芸術劇場「ファルスタッフ」、ひろしまオペラ・音楽推進委員会「カルメル会修道女の対話」「魔笛」、東京文化会館開場50周年記念オペラ「古事記」、新国立劇場「夜叉ヶ池」、慶長遣欧使節出帆400年記念事業「遠い帆」など。

●大山大輔(バリトン)
東京藝術大学首席卒業。同大学院修士課程オペラ科修了。
兵庫芸文センター《メリー・ウィドウ》ダニロにて鮮烈なデビューを飾って以降、《セビリャの理髪師》、《フィガロの結婚》フィガロ、《ラ・ボエーム》マルチェッロ等、主要な役を数多く演じている。特に近年では“井上道義×野田秀樹”による《フィガロの結婚》フィガ郎や、宮川彬良作曲 歌劇《ブラック・ジャック》タイトルロール、異彩を放つシアターピース、バーンスタイン《ミサ》でのセレブラント等、独自性の強い作品での主役として圧倒的な存在感を示している。
また宗教曲や、古楽の分野においても数多くのコンサートソリストを務める他、役者として演劇作品への出演も多く、劇団四季ミュージカル《オペラ座の怪人》ではファントムとして客演するなどジャンルを越えて活躍しており、その多彩な経験と独自の表現力から、台本執筆、MC・ナレーション、歌唱・演技指導にも定評がある。日本声楽アカデミー会員。洗足学園音楽大学ミュージカル・声楽コース講師。東京メトロポリタンオペラ財団所属アーティスト。

●加藤昌則(作曲家)
東京芸術大学作曲科を首席で卒業し、同大学大学院修了。
いわゆる「現代音楽」とは全く異なる視点で書かれた、美しく斬新な抒情性に満ちた作品は、多くの愛好者を持っている。01年デビューCD「SOLO」(アートユニオン)を発売。02年同CD収録曲の楽譜集、03年には女声合唱組曲「5つのソネット」の楽譜を出版。ムジークフェライン・ブラームスザールにてウィーンデビューを果たした。 05年日本を代表するクラシカル・サクソフォン奏者、須川展也からの委嘱により、「スロヴァキアン・ラプソディ〜サクソフォンとオーケストラのための〜」を作曲、スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演(サントリーホール)で初演され、09年にはブラティスラヴァにて再演、須川展也のアルバムにも収録された(金聖響指揮、東京交響楽団)。06年自身初のオペラ作品「ヤマタノオロチ」を発表、神奈川フィルの定期演奏会にて新作「刻の里標石(ときのマイルストーン)」(08年東京オペラシティコンサートホール開館10周年記念公演にて再演)、09年には宮本益光作詞による合唱組曲「あしたのうた」が音楽之友社より出版された。作品としては、12年≪福島復興・復活オペラプロジェクト≫作品「白虎」。(13年第11回佐川吉男音楽賞受賞。)13年管弦楽曲「Legends in the Sky」、14年連作歌曲「二本の木」(王子ホール委嘱作品)、15年「地球をつつむ歌声」(15年NHK全国学校音楽コンクール小学校の部課題曲(作詞:日野原重明))など、オペラ、管弦楽、声楽、合唱曲など幅広く、作品に新しい息吹を吹き込む創意あふれる編曲にも定評がある。村治佳織、山形由美、宮本益光、奥村愛など多くのソリストに楽曲提供をしており、共演ピアニストとしても評価が高い。独自の視点、切り口で企画する公演や講座などのプロデュース力にも注目を集めている。16年4月よりNHK-FM「鍵盤のつばさ」番組パーソナリティーを担当。

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