下野竜也(指揮) 東京都交響楽団

ボブ・ディラン作詩、コリリアーノ作曲の歌曲を日本初演

 現代音楽は下野で聴きたい。独自の感性による時流を押さえた選曲が、“面白さ本位”で新鮮だ。
 アメリカの作曲家ジョン・コリリアーノとは旧知の仲の下野、これまでにも何度も作品を取り上げてきた。今回、作曲家80歳の記念年に下野が日本初演する管弦楽伴奏の7つの歌曲集「ミスター・タンブリンマン——ボブ・ディランの7つの詩」(2003)は、すべてボブ・ディランの、しかもヒット作として知られている曲の歌詞に基づいている。
 一昨年のノーベル文学賞にみられるように、ボブ・ディランの時としてメッセージ性を含んだ歌は大きな影響力を持ってきた。同じ時代の空気を吸ってきたコリリアーノはこの歌曲集でディランの歌詞に完全な再創造を施し、時にオペラティックな表現力を要求するソプラノ・パートを、豊かな描写力を備えた管弦楽で彩っている。囁くような語り掛けがユーモラスな楽想に展開する表題曲「ミスター・タンブリンマン」に始まり、「物干しづな」「風に吹かれて」で静かな中にメッセージ性が高まっていき、「戦争の親玉」「見張塔からずっと」で反戦の気分は緊迫した絶叫や強烈な風刺と化す。この張りつめた気分は「自由の鐘」で緩み、終曲「いつまでも若く」では懐かしさを湛えたエンディングが導かれる。独唱のヒラ・プリットマンはアメリカ現代作曲家の歌曲を数多く手がけており、本作品の録音では2008年にグラミー賞を受賞している実力者だ。
 前半はメンデルスゾーンがイギリスを旅した時に着想した交響曲第3番「スコットランド」。第2楽章には木管に素朴な民謡風の旋律が現れるなど、シンフォニックな中に素朴な美しさを湛えている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年4月号より)

第855回 定期演奏会 Bシリーズ
2018.5/22(火)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド0570-056-057
http://www.tmso.or.jp/