近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2018

─沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)による新生・音楽祭の聴きどころガイド─

 穏やかな湖面に、美しき旋律が共鳴する――。「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2018」がGW期間中の5月3〜5日に開催される(3日は“プレ公演”)。開館20周年を迎えた滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールを主会場としてスタートする、新たなコンセプトに基づく音楽祭。「聴衆にも、演奏家にも、良い思い出となるものに」。プロデュースする同ホール芸術監督の沼尻竜典は語る。

取材・文:寺西 肇(ぶらあぼ2018年4月号より)

沼尻竜典
C)RYOICHI ARATANI
 今回のテーマは「私は夢に生きたい」。グノーの歌劇《ロメオとジュリエット》第1幕の有名なアリアのタイトルから採られた。「テーマは縛りのない、緩やかなものに。毎回、オペラ・アリアから採りたい。お金の儲からないものは要らない、という風潮は辛いもの。だから今年は、『夢が失われない世の中に』との願いを込めました」と沼尻は説明する。

 期間中は有料・無料を合わせて、60余りの公演を予定。聴衆は、自分で好きなステージを選んで楽しめる。「高校・大学時代に自分が実行委員長を務めていた、1980年代の桐朋学園の学園祭がモデル。(昨年まで同時期に開催していた)“ラ・フォル・ジュルネびわ湖”の後継企画ではありません」と強調。「“ここでしか聴けない”を意識し、『皆で持ち寄って、盛り上げよう』という手作りの企画。滋賀県を挙げての催しとして、広がりもできました。来場者数だけではなく“質”が成功の尺度になります」と語る。
 そして、「今年はバーンスタイン(生誕100年)、ロッシーニ(没後150年)、ドビュッシー(同100年)のメモリアル・イヤーなので、プログラムにも反映。例えば、ドビュッシーが1889年のパリ万博で触れ、衝撃を受けたジャワのガムラン音楽を聴いてから、彼の音楽を楽しみ、さらに彼から影響された武満徹の作品を味わう、といった楽しみ方も可能です」とも。

名曲で盛り上げるオープング&クロージングガラ

 4日、大ホールでのオープニングコンサートには、びわ湖ホールのプロデュースオペラでおなじみ、沼尻指揮の京都市交響楽団が登場。バイエルン国立歌劇場の専属歌手を務めたソプラノの中村恵理が、音楽祭のテーマでもある〈私は夢に生きたい〉などを披露するほか、新たな音楽祭の誕生を祝ってのドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」を。沼尻&京都市響はクロージングガラにも登場。イギリスの名クラリネット奏者、マイケル・コリンズや、国際的ソプラノの森谷真理、名テノール市原多朗と共演によるガラで魅せる。
 なお大ホールでは、大植英次指揮の大阪フィルハーモニー交響楽団による2公演も要注目。4日は、大植の師バーンスタインの傑作ミュージカル『ウェスト・サイド・ストーリー』から「シンフォニック・ダンス」、フィンランドのピアノの名匠アンティ・シーララを迎えてのグリーグの名協奏曲を。5日には、大植の“十八番”のひとつであるショスタコーヴィチの交響曲第5番「革命」を披露。また、京都橘高校(4日)と明浄学院高校(5日)、マーチング全国大会の常連2校も、圧巻のパフォーマンスを見せる。

名手たちが集結〜「円熟を聴く」

 小ホールでは4日、「ベテランが良い演奏をしていることをアピールしたい」と、豪華な顔ぶれによるシリーズ「円熟を聴く」を開催。チェロでは藤原真理がバッハの無伴奏組曲第3番ほかを、上村昇がベートーヴェンの第3番とドビュッシーという名ソナタ2曲などを弾く。そして、ヴァイオリンの渡辺玲子はバッハやパガニーニなど、無伴奏の名品を厳選。デビュー25周年を迎える戸田弥生は、沼尻のピアノを伴い、ベートーヴェン「春」とドビュッシー、2つのソナタを演奏する。
 さらに、ピアノでは小川典子がドビュッシーや武満の作品から、琵琶湖にちなんで「水」をテーマとする7曲を弾き、野平一郎は「イタリア協奏曲」などバッハの佳品に、自作を交えて。ハーモニカの和谷泰扶(やすお)はヴァイオリンの難曲、サラサーテ「カルメン・ファンタジー」などで超絶技巧を聴かせ、ギターの福田進一がラテンの名曲を軸とした得意のプロで掉尾を飾る。

多彩な歌の世界を堪能〜「歌手たちの競演」

 5日には、「オペラハウスのびわ湖ホールらしく」(沼尻)、人気・実力を兼ね備えた8人の名歌手たちが歌い継ぐシリーズ「歌手たちの競演」を開く。ソプラノでは、森谷がカッチーニほか「真理のアヴェ・マリア」、砂川涼子は故郷・沖縄の旋律を歌い、角田祐子は「現代歌曲は恐くない!」。メゾの林美智子はオペラでの“男装”の世界を特集。さらに、水口聡の「ザ・テノール!」バリトンでは河野克典のシューベルトや大御所・折江忠道による変幻自在の表現力など、まさに百花繚乱だ。

新機軸、野外オペラも実施〜「かがり火オペラ」

 湖畔に特設されたステージでは、夕刻に開演する「かがり火オペラ」も。今回は、びわ湖ホール声楽アンサンブルとザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団、大川修司の指揮、中村敬一演出でパーセル《ディドとエネアス》を上演。「野外でのオペラは、独特の趣があります。実は、いずれはオーストリアのブレゲンツ音楽祭のように“湖上”オペラを、との“野望”もあるんです」と笑みをみせる沼尻。「ゆく春を 近江の人と 惜しみける」――かつて松尾芭蕉がしたためた、俳句そのままの風情も味わえよう。

【Information】
近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2018
2018.5/3(木・祝)[プレ公演]、5/4(金・祝)、5/5(土・祝)
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、ピアザ淡海 滋賀県立県民交流センター、遊覧船ビアンカ ほか
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
※料金を含む公演詳細などは下記公式ウェブサイトをご参照ください。
http://bc2018.biwako-hall.or.jp/