清水和音(ピアノ)

「ピアノ主義」がいよいよクライマックス!

C)Mana Miki
リサイタルはいつも辛いものです

 日本のピアノ・ファンが、ピアノの貴公子、清水和音に狂喜したのは1981年ロン=ティボー国際音楽コンクール優勝のときだった。あれから37年。清水和音は今も常に我々を魅了する。その活動の一つに、2014年から毎年2回、春秋に開催するリサイタル・シリーズ「ピアノ主義」がある。
「おかげさまで今日まで生き残ってきましたけれど、いつも、リサイタルは辛く感じますよ。だって、そうでしょう。ピアノを聴くということは、本来なくてもいい、生活の“オプション”なんですから、であれば皆さんによいものを提供しなければ意味がないわけです。演奏家は年齢と共に低下していく面もありますから、それを上回るものを常に自分自身につくっていかないといけない。それには、おおもとになるものがなければ無理ですけれど、だから、アルゲリッチにせよ、アシュケナージにせよ、能力のある人ほどリサイタルは辛いはずです」

“本当に好きな曲”ばかりを集めた多彩な内容

 一回一回のリサイタルに真剣勝負で臨む清水和音の気迫が伝わってくる。清水ほどの大御所が、今もその都度「辛い」と感じるリサイタルこそ、ピアニストの本領が発揮される最大の場に違いない。そのリサイタル・シリーズもあと2回を残すのみとなった。
「4月は、ショパンの『舟歌』と『子守歌』、『マズルカ op.24』全4曲と『葬送』ソナタ、それにスクリャービンとラフマニノフです。『子守歌』は人前で弾くのは初めて。録音はしているんですけれどね。いい曲ですね。スクリャービンの『4つの前奏曲 op.22』も初めて弾きます。4曲でわずか5分ほどですが、とてもきれいな、聴きやすい曲です。10月の最終回は『月光』、ショパンの3番とリストの『ロ短調』という3曲のソナタ。ベートーヴェンについては32曲全曲演奏もやって、ライヴCDも出してはいますが、好きな曲とそうでもない曲があります。全部やりたがる人というのは、心の広い人だと思いますよ。逆につまみ食いの人は、我の強い人。好きな曲だと思いが強くなる。あまり思いが強すぎると失敗しますから、大熱演はしないほうがいい。演奏家は聴衆の眼の前で弾いているので、それだけでもすべて見えてしまいます。だから、作曲家の後ろにいるようにしたいんです。その人の個性は、抑制して弾いても必ず出るものです。名曲というのは、古来、多くの演奏家が弾いてきたのに、まだ、新しいことができると演奏家に感じさせる曲です。そこに作品の大きさがあるわけですから、作曲家の前に出ることはしたくないですね」

古今の名作を美しく網羅

 これまで「ピアノ主義」では、スカルラッティ、バッハ、モーツァルトから、最後の3曲を含むベートーヴェンのソナタ、ショパン、シューマン、リストなどのロマン派、ムソルグスキー、ラフマニノフなどのロシアもの、フランスものとしてはドビュッシー、ラヴェルが演奏されてきた。最初に全プログラムを決めたのだろうか。
「だいたいは頭にありますが、最初にすべて決めたわけではありません。1年半くらい前に、次の2回を決めるという感じでした。シリーズ全体というより、1回1回がきちんと成立していればよいと思っています」
 とはいえ、全10回のプログラムをじっくり眺めると、古今の珠玉のピアノ作品が美しく網羅されていることに気づかされ、清水の奥行きの深さに驚かされる。いよいよあと2回を残すのみとなった「ピアノ主義」。これはどちらも聴き逃せない。
取材・文:萩谷由喜子
(ぶらあぼ2018年4月号より)

清水和音 ピアノ主義
第9回 2018.4/21(土)14:00 
第10回 2018.10/20(土)14:00
浜離宮朝日ホール
問:MIYAZAWA&Co. 03-4360-5102/朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
http://miy-com.co.jp/