現代舞踊名作劇場 石井みどり『―体―(たい)』/江口隆哉・宮 操子『プロメテの火―全景―』

伊福部昭の伝説の舞台がいま甦る


 現代舞踊の名作である江口隆哉・宮操子『プロメテの火―全景―』、石井みどり『―体―(たい)』が半世紀を経て同時上演される。前者は江口隆哉が映画『ゴジラ』の音楽でも知られる伊福部昭に作曲を委嘱したオリジナル曲を、後者はストラヴィンスキーの「春の祭典」を用いた、共に大群舞作品だ。
 『プロメテの火』の初演は1950年。天から火を盗み人間にあたえたプロメテウスの物語に想を得た。江口がプロメテ(プロメテウス)に扮し松明を高々と掲げる姿は、遺された写真を見ても鮮烈だ。当時は戦後の混乱から立ち直っていく時期で、作品責任者の金井芙三枝は「江口隆哉先生が感じていたモヤモヤした重圧感をギリシャ神話に託した」と明かす。
 プロメテ役にはバレエ界から佐々木大を迎えた。佐々木は「プロメテは自分の身を削ってでも人に火を捧げる。憂いがあるのが魅力なので、そこにハマっていきたい」と抱負を語る。プロメテと心を通わす少女アイオを演じる中村恩恵は2015年の全景上演出演の経験を踏まえ「現代社会でも人間は『火』によって自由を得ると同時に危険を伴います。外国の神話のなかで描かれ、ある程度距離が生まれるので、素直に受け取れるのかもしれません」と本作の印象を述べた。
 今回の話題は09年に発見された伊福部自筆のスコア譜を再現すること。プロローグ付き全4景、間奏曲も含め重厚で雄大な伊福部サウンドをオリジナル編成で、しかも藝大フィルハーモニア管弦楽団(指揮:上野正博)の生演奏で聴くことのできる好機だ。
 『体(たい)』は1961年初演。振付者の石井みどりは日本の洋舞の先駆者・石井漠に学び、2008年に94歳で亡くなるまで現役を貫いた。創作において何よりも「動き」が大切であると説きつつ実践してきた第一人者で、『体(たい)』はストラヴィンスキーの「春の祭典」に突き動かされて生まれた。明確なストーリー性はないが、『古事記』をモティーフにしつつ「踊りの持つ生命力」(石井)の結晶として結実した。腰を落とし、足の裏をしっかり押して粘っこく踊るダンサーたちの動きを大胆かつ緻密に組み上げることによって「生命の構造」(石井)を立ち上げる。
 作品責任者で石井の子女である折田克子は、初演時の演技により現代舞踊の個人としては初の芸術祭奨励賞を受けた。折田によれば石井は「人間は自然に生かされている」と常々語っており、「文明と文化が共存できなくなるのは絶対にだめ」と石井から受け継いだ思いを胸に指導する。出演者に対しては「いきいきと挑戦して踊ってほしい」と望む。
 主演は酒井はな&島地保武。酒井は15年の上演に続く出演で「踊るのがとても難しい作品ではありますが、ダンサーの体の可能性をぐっと引き出す力があるのを感じます」とコメントした。今回が初めての島地は酒井が出演した舞台を観て「斬新でエネルギーに満ちていました」と語り、「とにかく体で挑戦し続けます」と意気込む。
 世界に誇るべき名作に触れ、時代を超えて伝わる芸術性に圧倒されるに違いない。
取材・文:高橋森彦
(ぶらあぼ2018年3月号より)

2018.3/24(土)18:30、3/25(日)15:30 彩の国さいたま芸術劇場 
問:現代舞踊協会03-5457-7731
http://www.gendaibuyou.or.jp/