エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団

エリアフ・インバル
C)Sayaka Ikemoto

 インバルが都響のシェフから桂冠指揮者となって早4年。彼が振る公演はますますスペシャル感を強めている。それは出演自体の貴重さに加えて、都響の音がいつになく緊迫感を帯びるからだ。そしてその緊迫感が最大限に生きる作品といえば、ショスタコーヴィチの交響曲であろう。
 インバルは1990年代にウィーン響と同作曲家の交響曲全曲を録音し、絶賛を博している。だが20年を経て、円熟味と強靭な高機能サウンドが結合した都響での鮮烈な演奏は、もはや別次元。これまで第4、5、8、10、12、15番で圧倒的成果をあげてきた。そこに今回、第5番に次ぐ人気作、第7番「レニングラード」が登場する。
 第二次世界大戦におけるレニングラード包囲戦の真っ只中で作曲され、戦闘や勝利への士気を反映した本作は、スペクタクルな迫力もシリアスなトーンも明快な旋律も感動的な凱歌も含まれた壮大な傑作。ただしショスタコの常として、既存曲からの引用の意味深さや隠された皮肉が指摘されてもいる。また全4楽章・約75分の半分近くを第1楽章が占め、有名な「戦争の主題」の反復が高揚感をもたらす。ところがそこでメーターを振り切ると後半には息切れし、さりとて曲全体のバランスを意識し過ぎると不完全燃焼に陥る。つまり一筋縄ではいかない作品なのだ。
 だからこそ今回は聴き逃せない。張り詰めた緊張感、引き締まった造型、推進力抜群の運び、微細な彫琢が相まった彼らの演奏は、前記の全てを超越した、凄絶にして深遠な“交響音楽”を実現させるのではないか。そうしたかつてない名演への期待に胸が膨らむ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年2月号より)

第849回 定期演奏会 Aシリーズ
2018.3/20(火)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057 
http://www.tmso.or.jp/