東京フィルハーモニー交響楽団 2018/19シーズンの魅力

豪華指揮者陣でおくる垂涎のラインナップ


 日本で最も長い歴史を持つオーケストラ・東京フィルハーモニー交響楽団は今、大きな特長を2つ有している。1つは、名誉音楽監督チョン・ミョンフン、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフが並ぶ豪華な指揮者陣。もう1つは、長年のオペラ演奏で培った“物語の絶妙な音表現”だ。
 2018/19シーズンの定期演奏会も、その特長を活かした魅惑のプログラムが組まれている。中でも特筆されるのが、オーチャード(改修のため2公演少ない)、オペラシティ、サントリーの3シリーズ全22公演のうち19公演を、ポストをもつ3人の世界的名匠が指揮すること。これは他と一線を画す絶大な魅力だ。しかも前記の特長を集約したオペラ(演奏会形式)が2演目用意されている点が目を奪う。
 まずはシーズン幕開けに、チョン・ミョンフンがベートーヴェンの《フィデリオ》(5月)を披露する。この勧善懲悪の物語は、「第九」と同質の感動をもたらす大カンタータ的な音楽であり、同楽団とのオペラやベートーヴェンの交響曲で再三熱演を展開してきたチョン・ミョンフンの真骨頂を堪能できること必至。加えて、シリアスな役柄に定評ある世界的テノール、ペーター・ザイフェルト(フロレスタン役)の名唱も聴き逃せない。
 同楽団定期の《トゥーランドット》《イリス》などで強烈なインパクトを与えたバッティストーニは、ボーイトの没後100年を記念して《メフィストーフェレ》(11月)を聴かせる。ヴェルディの《オテロ》などの台本作家でもあるイタリアの才人が作曲家として腕をふるった本作は、ゲーテの『ファウスト』に基づく劇的な音楽。管弦楽と合唱の迫力が際立った内容は、演奏会形式でより真価が味わえる。ましてや雄弁な語り口と圧倒的な熱量で魅せるバッティストーニならば、曲の美点を十全に伝えてくれること間違いなし。しかもプロによる生演奏はおそらく日本初となるので、これまた必聴だ。
 交響的な演目で見逃せないのが、チョン・ミョンフンとチョン・キョンファの姉弟によるブラームスのヴァイオリン協奏曲(10月)。カリスマ奏者チョン・キョンファの協奏曲演奏自体が稀少な上、姉弟の日本での共演は17年ぶりだけに、熱い魂の交歓に接する貴重な機会となる。
 またチョン・ミョンフンが振るマーラーの交響曲第9番(19年2月)も大注目。昨シーズンの「復活」で一段上の境地に達したマエストロならではの心打つ名演が期待される。さらには、ロシアで学び、ロシア音楽を愛するバッティストーニが日本で初めてショスタコーヴィチの交響曲第5番に挑む“ロシア・プロ”(5月,6月)、「シェエラザード」をはじめ、色彩的な音物語が並ぶ“おとぎ話プロ”(19年1月)も実に楽しみ。特に後者では、音を物語にのせたらピカイチの東京フィルの個性も存分に発揮される。そしてファン垂涎のレア演目が、プレトニョフ指揮するハチャトゥリアンの交響曲第3番「交響詩曲」(19年3月)。15本(!)のトランペットとオルガンが別働隊で加わるこの激烈大音響作品の生演奏は、生涯稀な驚愕体験となるに違いない。
 名門オーケストラがおくる充実度満点のプログラムを、1年通して満喫しよう!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年2月号より)

東京フィルハーモニー交響楽団 2018/19シーズンの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。 
http://www.tpo.or.jp/