下野竜也(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

創意あふれるプログラムはまさに刺激的!


 オーケストラのコンサートで、これほど刺激的なプログラムに出会えるのはまれなこと。下野竜也指揮による日本フィル第698回東京定期演奏会に並んだのは、スッペの喜歌劇《詩人と農夫》序曲、ユン・イサンのチェロ協奏曲(独奏はルイジ・ピオヴァノ)、ジェイムズ・マクミランの「イゾベル・ゴーディの告白」、そしてブルックナー(スクロヴァチェフスキ編曲)の弦楽五重奏曲より「アダージョ」。さて、ここからどんなメッセージが読み取れるだろうか。
 唯一の有名曲は《詩人と農夫》序曲。この陽気な序曲ではチェロがのびやかなソロを披露するが、続くチェロ協奏曲ではチェロが苦悶に満ちた表情で別の世界を描くことになる。ユン・イサンは韓国に生まれドイツに渡り、韓国中央情報部にスパイ容疑で拉致されるも、釈放されて西ドイツに帰化した作曲家。このチェロ協奏曲は自伝的作品といわれる。
 現代の作曲家マクミランが「イゾベル・ゴーディの告白」で題材にしたのは、17世紀スコットランドの魔女イゾベル・ゴーディ。魔女狩りの時代に自ら出頭して魔女であることを告白した女性である。楽曲では平安と苦悶が拮抗する。おしまいはブルックナーの室内楽曲をスクロヴァチェフスキが弦楽合奏にスケールアップした「アダージョ」。
 祈り、苦しみ、戦い、浄化。さまざまなキーワードが連想される。全体がひとつの作品であるかのような創意あふれるプログラムが実現する。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2018年2月号より)

第698回 東京定期演奏会
2018.3/2(金)19:00、2018.3/3(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
http://www.japanphil.or.jp/