ユーリ・テミルカーノフ(指揮) 読売日本交響楽団

剛毅で気骨あふれる音楽


 テミルカーノフの物静かで落ち着いた語り口からは、思索深い知性の人という印象を受ける。ところが指揮棒を使わず、すっと両手をあげ柔らかく振りおろすと、その腕先からはぴしっと規律が行き届いた、剛毅で気骨あふれる音楽が流れ出す――このギャップがたまらない。
 2015年に読響の名誉指揮者に就任したことにより、音楽監督在位30年になろうとする名門サンクトペテルブルグ・フィルの来日を待たずとも、その芸術をより身近に接することができるようになった。読響2月定期は、そんなマエストロが硬軟を自在に織り交ぜ音のファンタジーを満喫させてくれる。
 チャイコフスキー「フランチェスカ・ダ・リミニ」はダンテの神曲を素材に、禁断の恋と地獄の業火を描く。切なくメランコリックな旋律とドラマティックなオーケストレーションが愛に焦がれ炎に焼かれる女性の姿を浮かび上がらせる。ニコライ・ルガンスキーはラフマニノフを得意とするピアニストで、「パガニーニの主題による狂詩曲」の独奏には絶好の人選。コマーシャルにも使われた中間部の美しい変奏が有名だが、オケとの掛け合いで発揮される軽妙なピアニズム、ユーモラスな味わいにも耳を傾けよう。
 ラヴェル「クープランの墓」では読響木管の多彩な音色から生まれるエスプリに注目。レスピーギ「ローマの松」では精妙な管弦楽法が私たちを古代ローマの名所へと誘ってくれる。クライマックスではテミルカーノフの下、読響が一糸乱れぬ隊列を組み、アッピア街道を進み近づいてくる大群を圧倒的な迫力で描き出してくれるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年1月号より)

第575回 定期演奏会
2018.2/16(金)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp/