菊地裕介(ピアノ)

帰国10年、節目の年にシューマンと真剣勝負!

C)井村重人
 11年間に及ぶヨーロッパ生活から拠点を日本に移してから早くも10年。ピアニストの菊地裕介が、「10年を刻む春と秋」と銘打った春秋公演をオール・シューマン・プログラムで勝負している。春公演では「子供の情景」「クライスレリアーナ」などを取り上げ、秋公演では「アレグロ」「交響的練習曲」「トッカータ」「幻想曲」を弾く。
「若い頃から次々と新しい作品に取り組むことに熱中していて、パリで師事していたジャック・ルヴィエ先生からよく『君は曲を仕上げる際に詰めが甘いところがあるよ』と叱られたほどです(笑)。なので、どれも未完成にせよ、潜在的なレパートリーは広いんです。その中からシューマンをこの節目の年にまとめて磨き直そうと思ったのが理由です。シューマンのCDを1枚リリースしていることも関係しています」
 今回の秋公演では、小品と大曲が組み合わされている。
「前半は『アレグロ』と『交響的練習曲』です。『アレグロ』は2010年には僕が校訂した楽譜も出版しました。この曲はコンパクトなソナタ形式で書かれている一方、即興的なアイディアも盛り込まれているところが魅力でしょう」
 その「交響的練習曲」に5つの「遺作」変奏曲が含まれていることは周知のとおり。これらを弾くのか、弾くとしたら本編のどこに挿入するのかは、ピアニストにとって悩ましいところだ。
「遺作は弾きます。今、配列を考えています。実は、遺作変奏は従来5曲とされてきましたが、21世紀になって第6の遺作が世に出たのです。06年出版のヘンレ版の楽譜にはその遺作が収載されています。フラグメントなので、手を加える必要がありますが、これもどこかに挿入して演奏します」
 後半のプログラムの聴きどころについても尋ねてみた。
「『トッカータ』は昔、コンクールでずいぶん弾きました。今は老化防止(笑)ですかね。テクニカルな難曲と思われがちですが、とてもユーモラスで魅力的な曲です。それを教えてくれたのはアリエ・ヴァルディ先生でした。ですから、しゃかりきになって弾くのではなく、シューマンの人間味を伝えられたらいいなと思います。『幻想曲』は高校時代から弾いてきましたが、これは僕の人生の原動力ともいえる象徴的な曲です。調性も明るく開放的なハ長調が選ばれ、シューマンが自分のすべてを捧げ、愛に溢れています。それを表現したいですね」
 様々な分野の若きエキスパートが集まり、新たな発想を取り入れながら東京都の政策について意見交換を行う「東京未来ビジョン懇談会」のメンバーとしても活躍する菊地。40歳を迎えた彼の渾身のシューマン・プログラム、おおいに期待したい。
取材・文:萩谷由喜子
(ぶらあぼ2017年11月号から)

菊地裕介 SCHUMANN 2017
2017.11/18(土)15:00 音楽サロン A・PIACERE in 豊田
問:小劇場コンサート in とよた090-4233-3445
2017.11/24(金)19:00 東京文化会館(小)
問:株式会社 演 mail@ykpianoforte.com 
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