ルツェルン祝祭管弦楽団が11年ぶりに来日

 スイスのルツェルン・フェスティバルのレジデント・オーケストラであるルツェルン祝祭管弦楽団(LFO)が11年ぶりに日本公演を行う。10月6日からのツアーを前に4日、音楽監督のリッカルド・シャイーらが会見した。
 会見場となった「アーク・ノヴァ」は、音楽を通じて東日本大震災からの復興を支援しようと、ルツェルン・フェスティバルの働きかけによって実現したもので、世界的建築家の磯崎新と英国人彫刻家のアニッシュ・カプーアによって制作された、高さ18m、幅30m、奥行36mの巨大な移動式コンサートホール(収容人数494名)。「アーク・ノヴァ」はラテン語で“新しい方舟”を意味する。
 13年に宮城県松島町で、14年に仙台市で、15年には福島市で開催され延べ1万9千人を動員した。
 この取り組みに賛同した東京ミッドタウンが、震災から6年半を迎える今秋、「アーク・ノヴァ」を16日間展示した。
(2017.10.4 ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ2017 in 東京ミッドタウン Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

 LFOは、2003年夏、クラウディオ・アバドとルツェルン・フェスティバルの芸術総監督ミヒャエル・ヘフリガーにより創設された。世界の著名オーケストラで首席奏者を任されている演奏家たちや、卓越した技術をもつ室内楽奏者たち、ソリストたち、マーラー・チェンバー・オーケストラとミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団のメンバーらで構成されている。
 2014年1月のアバド逝去に伴い、その後を継いだのがシャイーだ。ここでは会見のなかからシャイーのおもな発言を紹介する。

リッカルド・シャイー
Photo:M.Terashi/TokyoMDE

◆音楽とは

 音楽というものは、たいへんな悲劇の前では、すこしの慰めにしかならないかもしれません。しかし、アーク・ノヴァという、このような建築物が作られたことは素晴らしいことだと思います。ここは音楽を演奏するには理想的な環境ではないかもしれませんが、こういう場所で音楽を奏でる、その気持ちは尊いものだと思っています。
 みんながアーク・ノヴァを通じて東北の方々に音楽を届けたいと考えた、その気持ちに意味がある。

 私はいつも孫達に語りかけています。「音楽を学ぶことは、人生のよきパートナーを得ることだ」と。
 人生でいろいろなことがあったときに、音楽は楽しみも与えてくれるし、遊びあいてにもなってくれる。ときには、人生の深い意味も音楽を通して理解できる、そのように、こどもたちに話します。
 音楽は謎ですよね。触ることも見ることもできない。音が発せられて消えていくまでの瞬間。そこでしか感じられない。しかし、謎であるがゆえに、われわれの魂、こころを揺さぶるのです。

左)ミヒャエル・ヘフリガー
Photo:M.Terashi/TokyoMDE

◆ツアー曲目について

 ツアーでは通常、同年夏のルツェルン音楽祭で演奏したプログラムを取り上げますが、今回はそれとともに、ベートーヴェン、ストラヴィンスキーも取り上げます。

 まず、ベートーヴェンのエグモント序曲と交響曲第8番です。彼の異なる様式を聴いていただこうと思います。
 この二つの作品が作曲された年は、1年しか違いません。「エグモント」は大地を思わせるとてもドラマティックな深い音楽。交響曲第8番は、天才作曲家であるベートーヴェンが人生の中で過去を振り返る作品だと思います。モーツアルト、ハイドンら古典派音楽を自分なりに解釈し、ユーモアを交えて書いた作品です。
 また、交響曲第8番はオーケストラにとってはとても難しくチャレンジングな作品です。というのもベートーヴェンが書いたメトロノーム表記の速度指定がとても速い。そこにできるだけ近づけるように、われわれは勇気を持ってチャレンジします。実際に彼の指定通りに演奏してみることで、新たな発見もあります。ベートーヴェンが感じていた鼓動も伝わってきます。

 そのあとに演奏される「春の祭典」。ルツェルン祝祭管弦楽団はソリストの集まりです。春の祭典では、そうした優れた演奏家の個々のパートがきわだって聞こえてくるでしょう。

 R.シュトラウス作品は3曲の交響詩すべてが個性的で美しい、けれども、演奏が難しい作品です。
 「ツァラトゥストラはかく語りき」に続く「死と浄化(変容)」は、人間の死の数時間前から変容する様を描いている、とても感動的で叙情的な作品です。冒頭に演奏される序奏の部分は、とても現代的な考え方といいましょうか、疲れた人間の心臓の鼓動を表しています。最後の変容のテーマに移行していく過程がすばらしい作品です。
 「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」にも「死」がテーマとして入っていますが、われわれはこの公演をあまり悲劇的な「死」のテーマで終わりたくないと考えました。作品の最後には「死」の叫びがありますが、これは大きな「笑い」でもあるのです。死を迎えたティル・オイレンシュピーゲルは、しかし、永遠に生き続けるという皮肉でもあるのです。

今夏のルツェルン・フェスティバルより
(C)Peter Fischli /LUCERN EFESTIVAL

今夏のルツェルン・フェスティバルより
Photo:Priska Ketterer/ LUCERNE FESTIVAL

【公演情報】
ルツェルン祝祭管弦楽団 2017年10月来日ツアー
指揮:リッカルド・シャイー

■10月6日(金) 19:00 東京/サントリーホール【プログラムA】
■10月7日(土) 17:00 東京/サントリーホール【プログラムB】
■10月8日(日) 15:00 川崎/ミューザ川崎シンフォニーホール【プログラムB】
■10月9日(月・祝) 15:00 京都/京都コンサートホール 大ホール【プログラムB】

【プログラムA】
ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」op.84 序曲
ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 op.93
   ***
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」

【プログラムB】
R.シュトラウス:
交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」op.30
   ***
交響詩「死と浄化」op.24
交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」op.28

問:カジモト・イープラス 0570-06-9960
http://www.kajimotomusic.com/jp/