アンドレイ・バラノフ(ヴァイオリン)

ロシア作品の魅力を多くの人と共有したいと思います

 豊潤な音色と、ほとばしる感性。2012年にエリーザベト王妃国際コンクールを制して一躍、国際舞台へ。多彩な活動を通じて、世界中の聴衆の心を捉えるロシア期待の俊英ヴァイオリニスト、アンドレイ・バラノフ。11月に「美しく、愛してやまないものばかり」と言う、思い入れ深い佳品の数々を来日リサイタルで披露する。
 「両親は私が生まれる前から、私をプロにしようと決めていたのです。選択の余地はありませんでした」。5歳で始めたヴァイオリン。きっかけを尋ねるとこのような答えが返ってきた。かたや、脈々と受け継がれるロシアのヴァイオリン演奏の伝統について「常に感じるが、重要視し過ぎてはいない」と語る。
「自国の伝統や特有の音楽的手法は、確かに大切。私の師も、その礎を創ったレオポルド・アウアーの系譜に連なる演奏家でした。しかし、ロシア的なものだけを切り離して考えるべきではありません。例えば、イタリアの巨匠はかつて、ロシア音楽にも影響を及ぼしました。実は、アウアーもロシア人ではない。音楽の世界では、全てが共存しているのです」
 12年には20世紀の巨匠ダヴィッド・オイストラフの名を冠した弦楽四重奏団を結成。
「ソロと室内楽にアプローチの違いはありません。音楽は、音楽。ひとつの完成された芸術作品であり、細部の全てが重要です。私はソロ曲を室内楽、室内楽をソロ曲のように弾こうと心掛けています」
 今回の来日リサイタルでは、「常に親密さを感じ、その美しさを多くの人と共有したい」という、自国の作曲家が一つの軸に。
「プロコフィエフのソナタ第2番は技巧的で、色彩感に富み、まるでロシアのお伽話のようです。ステージで演奏する度に幸福感を感じますし、聴衆が深い興味と喜びを抱いていると実感します」
 また、締め括りに置いたラヴェル「ツィガーヌ」について、意外にも「昨年まで、弾いた経験が無かった」と明かす。
「あまりにも有名で、すでに多くの奏者が弾いていて、自分が新しく出来ることは何も無いと思えたのです。しかし、ラヴェルは信じられない程の完成度と正確さで、奏者に何を求めているかを楽譜に指示している。奏者が自身の思い込みを脇に置き、指示通りに弾けば、その演奏は何倍も良くなると気づいたのです」
 今回の共演ピアニストは、実妹のマリア・バラノヴァ。
「どんな時も、自分についてきてくれると確信を持てるので、私をとても自由にさせてくれます。特に、今回のように高い技量を要求する曲が多いプログラムには、彼女の存在は必要不可欠ですね」
 少し唐突だが、人生の夢について尋ねてみた。
「幸せなことに、音楽から離れた夢を見る時間がありません。何せ、次に弾かなくてはならない作品の構想を練るのに、忙し過ぎるんです。自分が弾く作品を自由に選べるのは、幸せですね。演奏こそ、最高の喜び。最も大切な私の夢とは、新しいものを創り上げ、それを次の世代に遺していくことです」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2017年10月号から)

アンドレイ・バラノフ ヴァイオリン・リサイタル
2017.11/19(日)14:00 トッパンホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp/

他公演
2017.11/16(木)武蔵野市民文化会館(小)(0422-54-2011)