ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

めくるめく刺激のヴァリエーション


 ノット&東響を聴く妙味の一つが、斬新なプログラミング。それは、昨年4月の東京オペラシティシリーズにおける、リゲティ作品とヴィオラ・ダ・ガンバ合奏団によるパーセル作品の交互演奏といった大胆な発想を交えながら、各曲を単独で聴いた時とは異なる立体的かつ清新な感覚をもたらしてきた。
 この発想力が今期最も発揮されるのが、「変奏(ヴァリエーション)」をテーマにした10月定期だ。冒頭にいきなりリストの「バッハの名による前奏曲とフーガ」を、石丸由佳がオルガンで演奏。これは「B-A-C-H=シ♭-ラ-ド-シ」音型に基づく変奏曲である。すると次は4管編成の大管弦楽に一変し、シェーンベルクの「管弦楽のための変奏曲」が登場。12音の音列と共にこれまた「B-A-C-H」音型が用いられる。直前にリストの曲を耳にしているので、難解な音楽がより深く楽しめるという趣向だ。さらに後半は、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」で、ピアノとオーケストラによる24の変奏、ラヴェルの「ボレロ」で、様々な楽器による“音色の変奏”が披露される。
 多彩な変奏の世界は十分に刺激的だが、それだけではない。シェーンベルクとラヴェルの作品は共に1928年の作。ラフマニノフも1934年の作ゆえに、同時期の楽曲の性格の違いも浮き彫りにされる。このほか、オルガン曲屈指の大迫力サウンド、ライヴでこそ実感できるシェーンベルク作品の複雑な綾、パリを拠点に活躍する児玉桃のピアノの名技、「ボレロ」における東響メンバーの妙技など、見どころが目白押し。かくもエキサイティングなコンサートは滅多にない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年10月号から)

第654回 定期演奏会
2017.10/21(土)18:00 サントリーホール
第130回 名曲全集
2017.10/22(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
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