「高松宮殿下記念世界文化賞」にミハイル・バリシニコフ、ユッスー・ンドゥールら

 第29回 「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催:公益財団法人日本美術協会)の受賞者が9月11日、事前発表記者会見で発表された。演劇・映像部門にバレエダンサー・振付家のミハイル・バリシニコフ、音楽部門に作詞家・作曲家・歌手のユッスー・ンドゥールが選ばれた。

バリシニコフ・アーツ・センターのスタジオにて 2017年 ニューヨーク

 ミハイル・バリシニコフは、1948年ラトビア・リガ生まれ。抜群のリズム感とテクニックで高い評価を得たクラシック・バレエと現代バレエに加え、演劇、映画、テレビでも人々を魅了してきた。旧ソ連時代にキーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ団)のトップダンサーに上り詰めたが、74年米国に亡命。アメリカン・バレエ・シアター(ABT)に入団する一方、映画俳優にも挑戦し、『愛と喝采の日々』(1977)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。その後、ニューヨーク・シティ・バレエ団を経てABTの芸術監督に就任。日本には60年代から来日し、98年に坂東玉三郎と共演を実現させた。2005年には、「バリシニコフ・アーツ・センター」をニューヨークに設立し、若手芸術家の育成にも尽力している。
 69歳の今も、新しい芸術形態への挑戦をし続けることについて、「自分に向いた題材だと100%の確信がなくとも、いつもトライしています。自分自身の恐怖に打ち勝ちたい。これが人生です」と語る。
 最近では、一人芝居『ブロツキー/バリシニコフ』、『ある男への手紙』で賞賛を浴びた。今年4月には、生まれ故郷ラトビアから市民権が贈られた。昨年の音楽部門受賞者のギドン・クレーメルとはラトビアでクラスメイトだったという。

ユッスー・ンドゥール

 ユッスー・ンドゥールは、1959年セネガル・ダカール生まれ。グリオ(語り部)の家系に生まれ、12歳から音楽活動を始める。西アフリカ固有のリズム「ンバラ」をモダンにアレンジし、伝統音楽にさまざまな民族音楽や欧米ポップ・ミュージックのエッセンスを取り入れ、80年から90年代にかけての「ワールド・ミュージック」ブームを牽引。86年ピーター・ガブリエルやポール・サイモンらが参加したアルバム『ネルソン・マンデーラ』やスティングらとの共演で世界的アーティストの地位を築いた。2004年発表のアルバム『エジプト』でグラミー賞受賞。11年、政治活動に専念するため音楽活動を一時停止したが、2年半後に復帰。日本ではホンダ・ステップワゴンのCMソングで認知度を高め、06年に10年ぶりの来日公演を行った。今年4月、新アルバム『アフリカ・レック』が日本でも発売された。セネガルから世界文化賞の初受賞となった。

 また、絵画部門で受賞した、ニューヨーク在住イラン出身の映像作家のシリン・ネシャットは、今夏のザルツブルク音楽祭でオペラ《アイーダ》の演出を手がけている。

『ロジャ・シリーズ/アンタイトルド』(2016) の画面写真を背に 
グラッドストーン・ギャラリー 2017年 ニューヨーク

 そのほかの受賞者は、次の通り。彫刻部門:エル・アナツイ(ガーナ)、建築部門:ラファエル・モネオ(スペイン)。また、第21回「若手芸術家奨励制度」として、ズゥカック劇団・文化協会(レバノン)が選ばれた。

 「高松宮殿下記念世界文化賞」は、日本美術協会の創立100周年を記念し1988年に設立、前総裁高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」との遺志にもとづき、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の各分野で世界的に顕著な業績をあげた芸術家に毎年授与される。
 受賞者の選考は、国際顧問である中曽根康弘(元首相)、ウィリアム・ルアーズ(米、元メトロポリタン美術館理事長)、ランベルト・ディーニ(元伊首相)、クリストファー・パッテン(英、オックスフォード大学総長)、クラウス=ディーター・レーマン(独、ゲーテ・インスティトゥート総裁)、ジャン=ピエール・ラファラン(元仏首相)が主宰する各専門家委員会が、広く世界に目を向けて候補者の推薦にあたる。その推薦リストに基づいて、日本の選考委員会が受賞候補者を選び、日本美術協会理事会で最終決定する。
 なお、授賞式は同協会総裁の常陸宮殿下、同妃殿下出席のもと、10月18日(水)に行われる。受賞者には、顕彰メダルと賞金1500万円が贈られる。

会見より 左から)池辺晋一郎(音楽部門選考委員)、高階秀爾(絵画/彫刻部門選考委員長)、中曽根康弘(世界文化賞国際顧問)、清原武彦(日本美術協会副会長)、馬場璋造(建築部門選考委員)、渡辺祥子(演劇・映像部門選考委員)
Photo:H.Yamada/Tokyo MDE

高松宮殿下記念世界文化賞
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