松本健司(クラリネット)& 齋藤真知亜(編曲/ヴァイオリン)

 N響の首席クラリネット奏者・松本健司と、同楽団の第1ヴァイオリン次席奏者・齋藤真知亜率いるマティアス・ストリングスが、CD『モーツァルト:クラリネット五重奏曲&クラリネット協奏曲』をリリースする。これは「弦楽四重奏版『レクイエム』(齋藤編曲)の延長線上で、モーツァルト後期作品の醍醐味を味わっていただく」(松本)のがコンセプト。齋藤編曲による協奏曲の五重奏版が実に興味深い。
「『レクイエム』では、自身がクリスチャンたることの自負をもって編曲しましたが、今回はオケマンとしてこの曲とどう関わっていけるかを深く考え、普段オケの中で聴いている松本さんの音色や世界観を生かし、より輝いていただければと。それに基本は室内楽ですが、管弦楽の音量や容積の大小と広がりを立体的に表現したいとも思いました。松本さんにトゥッティの部分も吹いてもらったり、色々と話し合いながら進めることができましたが、これは“同じ釜の飯を食う”仲間ゆえに可能なこと。ですから幸福感に充ちたレコーディングでしたね」(齋藤)
「第1楽章の前奏部分も吹いているのですが、普段ソロ・パート以外は演奏しないので、意外に難しい。でも今までと聞こえ方が違うので新鮮でした。それに人数が少ない分、機動力が増し、全体の動きが軽くなります。そのため五重奏曲と協奏曲では、マウスピースやリードのセッティングを変えました。すると協奏曲では今までできなかったことが可能になる。これは新発見でしたね。また、日頃一緒に演奏しているので、呼吸や音を切るタイミングが自然に揃う。私も演奏していて幸せでした」(松本)
 技法上の収穫は弦楽器も同様だ。
「弦楽器はヴィブラートに頼りがちですが、クラリネットはヴィブラートをかけない楽器なので、右手のボウイングを見つめ直すいい機会になりました」(齋藤)
 楽曲自体の魅力について齋藤は「モーツァルトに尽きる。まさに天上の音楽で、本当にいい曲」と言い、松本は「最近多い装飾などを加えた演奏に疑問を感じていましたので、今回はあえて楽譜通り、シンプルに演奏して世に問うてみたいと考えました」と語る。
 なお四重奏は、降旗貴雄(ヴァイオリン)、坂口弦太郎(ヴィオラ)、宮坂拡志(チェロ)と全員N響のメンバー。松本は「非常に熱心で、1小節ごとに細かく合わせ、やりとりする」ことに感心し、齋藤は「表面上ではなく、骨や血や肉の部分を同じくするには時間が必要。それを理解してくれる謙虚な人を選んだ」と話すので、そのアンサンブルにも注目だ。
 また試行錯誤の結果、クラリネットの演奏位置は、五重奏曲が中央、協奏曲が左端になっている。楽曲の性格をも表すこうした音像を含めて、他に類のないアルバムを大いに楽しみたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年10月号より)

【CD】
『モーツァルト:クラリネット五重奏曲&クラリネット協奏曲/松本健司(クラリネット)&マティアス・ストリングス』
マイスター・ミュージック
MM-4017 ¥3000+税 
2017.9/25(月)発売