イリア・グリンゴルツ(ヴァイオリン)

パガニーニとシャリーノがもたらす未知なる体験

C)Tomasz Trzebiatowski

 パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールに優勝(1998年)したイリア・グリンゴルツにとって、あらゆる技巧を駆使し、表現の極北を追求したパガニーニの「24のカプリース」は、文字通りプロフェッショナルへの入口にあった曲。その後もレコーディングを行うなど、この作品に魅了され続けているようだ。
「パガニーニのカプリースは、私にとって“西洋音楽の新たな一歩”と考えています。他の作曲家のみならず、パガニーニ自身の曲と比べてもその独創性は際立っており、少なくとも20年は時代の先を行っています。和声的言語、修辞的技法やシンプルさといった点でも、カプリースにはパワーがあります」
 今回演奏されるイタリアの現代作曲家シャリーノの「6つのカプリース」もまた、特殊奏法を駆使し新たな音響世界を生み出した難曲。パガニーニ全曲演奏はそれだけでもチャレンジングだが、シャリーノとの組み合わせは心技体の高度なバランスを要する。
「シャリーノのこの世のものとは思えない霊的な音楽の世界に魅了されています。もちろんパガニーニのカプリースと似ている部分はありますが、重要なことはその革命的な性質であり、パガニーニと同様、新たな世界がシャリーノによって切り開かれたことなのです」
 しかもパガニーニの間にシャリーノを挟み込みながら、自由な順番で演奏するという。
「両者の類似は表面的なものにとどまらず、もっと広く音楽の概念そのものにあります。だからどんな順序でも、いかようにも演奏できるのです。ある世界からまた別の世界へ変わる時、そしてそこに何か必要性を感じるところに、シャリーノを盛り込みました」
 時を超えて二つの才能が結びつけられるのだが、空間的にも緊密化していく現代のグローバル社会において、アーティストに求められるものは何なのだろうか。
「グローバル化が進んだことで、同時にアイデンティティも重要視されるようになってきました。演奏家という仕事は今までにないほど難しくなっています。あらゆる時代の音楽言語に精通し、何百もの伝統の道を指し示せなければなりません。少なくともそのことが私にとってのゴール、目的です。そしてそれは演奏者個人の事情から離れ、むしろ幅の広い学びを通じて達成されるのです」
 このプログラムを今夏のザルツブルク音楽祭で演奏した後に、日本にやってくる。
「ザルツブルクは複雑な歴史と伝統を持った町で、音楽祭にはソリストとして、またクァルテットのメンバーとして参加してきました。日本もまた、お気に入りの国のひとつです。豊かな歴史と芸術的な伝統を持ち、食にこだわりのある私にとっても最高の場所です。リサイタルを楽しみにしています! きっとお客様にも未知の体験となるでしょう」
取材・文:江藤光紀
(ぶらあぼ2017年9月号より)

イリア・グリンゴルツ 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
2017.9/19(火)19:00 浜離宮朝日ホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp/