トリフォニーホール《ゴルトベルク変奏曲》2017 ピーター・ゼルキン(ピアノ)

人生の転機となった“特別な作品”を日本で披露

©Regina Touhey Serkin

 「終わりのない旅」。鍵盤音楽の最高峰の一つであるバッハ「ゴルトベルク変奏曲」への取り組みを、こう形容するピアニストは数多い。アメリカの名匠ピーター・ゼルキンも、おそらくそうだろう。過去に3度行った録音のそれぞれに異なるアプローチが、それを物語る。そんな彼が、傑作と“今を語る対話”を展開するリサイタルを東京で開く。
 音楽史に偉大な足跡を残す大ピアニスト、ルドルフ・ゼルキンの息子にして、ドイツの大ヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュの孫という血筋に生まれたピーター。ミエチスラフ・ホルショフスキやアルトゥール・シュナーベルといった巨匠の薫陶を受け、自らも名ピアニストに。同時代音楽に強い共感を寄せる一方、バッハやベートーヴェンなどの古典においても、卓越した洞察力に基づく、数々の名演を生み出してきた。
 中でも、名匠は、「ゴルトベルク変奏曲」にとりわけ深い思い入れを示す。3度目の1994年盤は、父ルドルフに捧げられ、主題にあたるアリアに挟まれた30の変奏が淀みなく流れる一方、見事にシンメトリー構造を浮き彫りにする快演。その父は生前、アンコールでアリアを弾いた際、全曲を弾き切ってしまったとの逸話もあるほど、この作品を愛した。
 何より、ピーターにとっては、いったん音楽の道を諦めた20代の頃、バッハこそが、その決意を翻す契機となった作曲家でもある。今回は、日本の聴衆の前で、そんな“特別な作品”である「ゴルトベルク変奏曲」にじっくりと対峙。ここへ、モーツァルトによる「アダージョ ロ短調」と「ソナタ第17番」、深い精神性を湛えた晩期の佳品を添える。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2017年7月号より)

8/1(火)19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 
http://www.triphony.com/