【会見レポート】東京バレエ団がプティ作品を初上演へ〜『アルルの女』

 東京バレエ団が9月8日から9月10日まで『〈20世紀の傑作バレエ〉ープティ、ベジャール、キリアン』を上演する。これに先立ち5月23日、斎藤友佳理芸術監督と『アルルの女』(ローラン・プティ振付)に出演する上野水香、川島麻実子、柄本弾、そしてプティ作品の振付指導ルイジ・ボニーノらが出席し、記者懇親会が行われた。
(2017.5/23 東京バレエ団 Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

左より:柄本 弾、川島麻実子、上野水香、ルイジ・ボニーノ、斎藤友佳理、ジュリアン・ウィッティンガム

 『〈20世紀の傑作バレエ〉ープティ、ベジャール、キリアン』は副題にあるとおり、20世紀の舞踊史に名を刻む振付家、ローラン・プティ(1924〜2011)振付の『アルルの女』(音楽:ジョルジュ・ビゼー、以下『アルル』)、モーリス・ベジャール(1927〜2007)振付の『春の祭典』、イリ・キリアン(1947〜)振付の『小さな死』(音楽:モーツァルト)の3作品を上演する。東京バレエ団がプティ作品を上演するのはこれが初となるが、『小さな死』も今回が同団初演となる。

 フランスの小説家アルフォンス・ドーデの戯曲と、その戯曲に付曲されたビゼーの組曲に振り付けられた『アルル』は、プティが設立したマルセイユ国立バレエ団で1974年に初演。幻影の女性を追い求めて身を滅ぼす青年フレデリと、その婚約者ヴィヴェットとの悲恋を描く。今回の上演では、世界のバレエ界で活躍するイタリアの貴公子ロベルト・ボッレ(9/8,9/10)と柄本弾(9/9)がフレデリを、上野水香(9/8,9/10)と川島麻実子(9/9)がヴィヴェットを踊る。

 同団は近年、ジェローム・ロビンズの『イン・ザ・ナイト』の上演等、20世紀の巨匠たちの作品をレパートリーに加えている。今回『アルル』の上演に至った経緯を斎藤は、2016年9月にモスクワで行われた<クレムリン・ガラ>に向けて、東京で行った上野の『アルル』のパ・ド・ドゥのリハーサルに携わったことにあったと語る。
「作品のセレクトは今いるダンサーにとって何が必要なのかを大切にしていきたい。その上で、難しい感情表現が必要とされる『アルル』を今この時期にやることにとても意味があると思った。ゲストなしでも公演ができるというのが正直な気持ち。キャスティングを決める時にボニーノさんからも『東京バレエ団だけでできる』と仰っていただいた。近い将来それが実現できると思う」

左:ルイジ・ボニーノ 右:斎藤友佳理

 主演の2組を指導するルイジ・ボニーノについては、「ボニーノさんにプティ作品を教えていただけることに価値がある。私自身はプティさんと接点はなかったが、彼の指導を通してプティさんが何を求めていたのかが見えてきたような気がする。
 ボニーノさんが『アルル』に求めているのは、99パーセントが内面的、心理的なもの。ダンサーたちにはこの作品を通して変わってほしいと願っている。ルイージさんは東京バレエ団のダンサーを愛し、(ボッレの代わりに上野とリハーサルをする)秋元君にも将来踊れるようにと全て教えてくださる、その彼の姿勢に感銘を受けた。エネルギッシュに妥協なく教えてくださるルイージさんにとても感謝している」と述べた。
ルイジ・ボニーノ

左より:柄本 弾、川島麻実子、上野水香、ルイジ・ボニーノ

 プティの元で長年活躍し、プティ作品のアーティスティック・ディレクターを務めるボニーノ。
 「もし私が女性に生まれたなら『アルル』のヴィヴェットを演じたい」と作品への想いを馳せながら、東京バレエ団とのリハーサルについては次のように語った。
「35年間プティと一緒にいて、彼から全てを学んだ。彼が亡くなり寂しくてしかたないが、ここにいることは責任が重く、プティが求めていたことを忠実にやろうと思っている。友佳理さんをはじめバレエ団と仕事ができることが嬉しいし、ダンサーたちにとって素晴らしい監督がいることは幸せ。初めて見たプティ作品が『アルル』だったので、私にとって特別な作品。とても深い愛と人生を表す難しい作品だが、ダンサーたちは集中力、理解力がある。近い将来また一緒にやれる機会があればと願っている」
 群舞の指導は、20年前からボニーノと仕事をするジュリアン・ウィッティンガムが担当。
「東京バレエ団は、常に受け入れる体制が整っていて、とてもやりやすい。細かいところはこれからだが、ボニーノが日本をたたれる前に、コールドをまとめたいという思いでやってきた。振付のみならず感情表現などはあらたかたダンサーに伝わったと思う」
左より:ルイジ・ボニーノ、斎藤友佳理、ジュリアン・ウィッティンガム

 同団初のプティ作品上演となるなかで、上野水香は18歳の時にプティとボニーノより指導を受けた経験をもち、「無心で踊っていた私に“バレエ”を教えてくれた」方々と語る。〈クレムリン・ガラ〉で『アルル』のパ・ド・ドゥをボッレと共演し、今回全編踊ることにあたり今の心境を次のように語る。
「いつか踊りたいと憧れていた作品。『アルル』のパ・ド・ドゥで何よりも印象的なのは『第8回世界バレエフェスティバル』(1997年)でドミニク・カルフーニとマニュエル・ルグリが踊られたもの。カルフーニさんのヴィヴェットがすごく輝いていて、胸がしめつけられる感情表現、アーティストとしての器量が現れていて、あこがれがある。私自身、心の表現ができるダンサーに変わっていかなければいけない時期。ボニーノさんにはこれまで何度も教えていただいているが、今回も細かくご指導いただき、すごく新鮮な気持ちで作品に取り組むことができていて胸がいっぱい。毎回悲しすぎて涙しながら踊っているが、本番では自分だけのヴィヴェットを演じたい。ボッレさんとの共演も素晴らしい経験になると思う」

上野水香

 ボニーノは以前、柄本と初めて会ったときに『アルル』をやったらいいのではと声をかけたという。今回それが現実となるわけだが、体力的にもテクニック的にも難しいフレデリを演じる柄本は、「内なる感情の出し方がとても勉強になる作品。存在しない相手を求めつつ、現実の相手に対して嫌いじゃないけれど君の相手はできない、という微妙な距離感を出すことが難しい。先日一通り全てを踊ってみて、終わった後20分間くらい何もできない程、とてもハードな作品であると痛感した。体力もつけつつ、最終的には内側からストーリーを語れるようにしたい」
柄本 弾

 今回プティ作品を初めて踊る川島は、「新しいものに挑戦したいという思いが強く、『アルル』の上演が決まった時に『踊りたい』と強く思った。踊る以前は男性のイメージが強い作品だったが、今回ヴィヴェットを演じてみて、女性の感情表現の役割が重要な作品だと感じる。自分の現実や気持ちを反映しないといけない役で、ただ今はその感情を出し切れない自分がもどかしい。9月までに自分自身を掘り下げて、どう自分を打ち破っていけるかがいまの課題。課題を与えてくださる指導者の方と作品に出会えたことに感謝している」と述べた。
川島麻実子

【リハーサルより】

上野水香
C)Kiyonori Hasegawa

上野水香(左)と秋元康臣
C)Kiyonori Hasegawa

柄本 弾と川島麻実子
C)Kiyonori Hasegawa

川島麻実子と柄本 弾
C)Kiyonori Hasegawa

柄本 弾(左)
C)Kiyonori Hasegawa

〈20世紀の傑作バレエ〉
「アルルの女」「小さな死」「春の祭典」
9月8日(金)19:00、9月9日(土)14:00、9月10日(日)14:00
東京文化会館
問:NBSチケットセンター03-3791-8888
*公演の詳細、配役は下記URLでご確認ください。
http://www.thetokyoballet.com/