秋山和慶(指揮) 東京交響楽団

ホルンが導く独墺王道プログラム


 「生まれつき両腕がない」ホルン奏者が、6月の東響定期に登場する。その名はフェリックス・クリーザー。1991年ドイツに生まれ、4歳でホルンに興味を持った彼は、5歳からレッスンを受け始め、左足でのバルブ操作を習得。17歳で名門ハノーファー音楽演劇大学に進み、ベルリン・フィルの元奏者マルクス・マスクニッティやペーター・ダムに師事した。その後、ラトルやスティング等と共演し、ベルリンのフィルハーモニーやミュンヘンのガスタイク等の著名ホールで演奏するほか、CDも複数リリース。エコー・クラシック賞最優秀新人賞やレナード・バーンスタイン賞を受賞している。器具にホルンを固定し、足の指でバルブを操って演奏する姿は、YouTubeでも話題を呼んでいるが、その凄さは何より演奏そのものにある。テクニックは抜群で、音色は美しくコクがあり、フレージングは滑らかで表情豊か。特に同楽器では実現至難な音楽の自然さに驚かされる。今回は、伝ハイドンとモーツァルトの協奏曲を2曲披露するので、管楽器ファンならずとも必聴・必見だ。
 指揮は同楽団の桂冠指揮者・秋山和慶。オーストリアの協奏曲以外は、ウェーバーの《オベロン》序曲とブラームスの交響曲第1番という王道のドイツ音楽が並ぶ。この2曲、実はいずれもホルンに重要なソロがある。名作プロと見せながらの、こうしたさりげない仕掛け(統一性)もニクい。そして今の秋山の表現は、円熟の奥行きだけでなく、アグレッシブなエネルギーに満ちており、毎回密度が濃い。それゆえ本公演は、聴き終えての充足感が確実に約束されている。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年6月号から)

第651回定期演奏会
6/24(土)18:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp/