大野和士(指揮) 東京都交響楽団

名匠たちが仏・独の傑作で魅せる“音の風景画”

 6月の都響定期は音楽監督の大野和士が登場、3つのプログラムを振るが、どれも選曲が絶妙で、それぞれに違った味わいが楽しめそうだ。曲の流れにどんなストーリーを重ねるかは人それぞれだが、ここでは6月21日のプロに焦点を当ててみよう。
 プログラムを貫くテーマは“自然”。まずドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」で幻想的に幕を開ける。半音階で揺らめくフルートのソロに始まり、曖昧模糊としたオーケストレーションから鳥のさえずりやあくびの所作を思わせるフレーズが聞こえてくる。音の桃源郷がけだるい牧神の午睡を描きだす。
 続いてヴァンサン・ダンディ「フランスの山人の歌による交響曲」。3楽章構成・曲中に統一感をもたらす循環主題の使用など、フランスの交響曲のスタイルを踏まえた本曲では、仏南部の山岳地帯セヴェンヌ(ダンディの故郷のような場所)の民謡を元にした素朴な旋律が繰り返し現れる。全篇きらびやかなピアノ独奏に彩られているが、今回はフランス音楽のプロフェッショナル、ロジェ・ムラロが朴訥な歌にたっぷりとエスプリをまぶしてくれるはずだ。
 後半はドイツに移り、ベートーヴェンの「田園」。都会から田舎、さらに川べりの散歩へ。村人たちの踊りに足を止めているうちに激しい雷雨に遭遇する。それがすぎると、再び弾むような気分が帰ってくる。
 独仏両国の劇場を率いた大野が都響の音楽監督に就き丸2年、すっかり顔となった。そのタクトから放たれるマイナスイオンを胸いっぱいに吸いこんでほしい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年6月号から)

第834回定期演奏会Cシリーズ
6/21(水)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp/