堤 剛(チェロ)

若き感性とのコラボレーションがもたらす、巨匠の新境地

©鍋島徳恭

 チェロの巨匠・堤剛は、この5月、2010年ジュネーヴ国際コンクール優勝後、多方面で活躍する若手ピアニスト・萩原麻未と組んだ、全曲初録音のCDをリリース。夏にはほぼ同じ演目でHakuju Hallをはじめ全国4ヵ所でリサイタルも行う。萩原は、堤が今「最も共演したいピアニスト」だ。
「演奏を聴いて感銘を受けたのは、彼女の感性です。音に対する鋭さもありますし、音自体が素晴らしく、チェロを活かしてくれると思いました。そこで一緒に弾いてみて、私自身まだ掘り起こされていない面が出せるのではないかとの感触をつかみ、昨年7月初旬に録音しました。すると1曲目のフランクの出だしから、まさに別世界。今後も共演を続けたいと思っています」
 CDは、そのフランクとR.シュトラウスのソナタが主軸。
「フランクのソナタは、元々チェロのために書き始めたともいわれるほど、この楽器に向いた曲。今回はヴァイオリンとのカラーの違いやチェロでの良さを出せたと自負しています。シュトラウスのソナタは、19歳時の作ですが、がっちりとした大曲で、彼が当時訪れて刺激を受けたウィーン的な諧謔があり、和声進行は既に完成されています。それに私は『ドン・キホーテ』を得意としていますので、シュトラウスに近しさを感じていました。ただ、このソナタはピアノのパートが難しいので滅多に演奏されない。その点、萩原さんは上手いだけでなく、音楽の流れを大事にされるので、自然な流れの中に“うねり”が生じ、私自身新しい表現を打ち出せたような気がします」
 もう1つは三善晃の「母と子のための音楽」。これは特別な1曲だ。
「3年前、三善先生の未亡人からこの曲の存在を教えていただきました。先生が晩年の病院生活の中、病気で苦しんでいる子供たちや彼らの親御さんに聴いてもらうために書いた、短い5曲からなる作品。優しく温かく美しく、珠玉の逸品とはこのことです」
 ライヴでは当然アプローチが変化する。
「即興性が加わり、会場や聴衆の反応にも左右されるのが、ライヴの面白さ。私はその時の自分のあるべき音や音楽を作り上げていきますが、別の要素が加わることでそれが変わってきます。しかも萩原さんには若さがあり、考え方の違いもあります。彼女に学び、触発し合いながら音楽を作っていくことによって、新たな経験ができ、未知の世界を切り開いていけるのではないかと思っています」
 なおリサイタルでは、ベートーヴェンの「《魔笛》の主題による12の変奏曲」が加わる。これは「今後ベートーヴェンのソナタを演奏するための第一歩」とのこと。
 韓国での教育活動や新作初演など、重鎮にしてなおも挑戦を続ける堤。若い演奏パートナーとの新境地を、CDと「音環境の良い」Hakuju Hallなどで行うリサイタルで、存分に堪能したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年6月号から)

堤 剛 & 萩原麻未 デュオ・リサイタル
7/8(土)15:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp/

他公演
6/20(火)奈良/秋篠音楽堂(0742-35-7070)
6/22(木)岩手県民会館(019-624-1173)
7/2(日)戸塚区民文化センターさくらプラザ(045-866-2501)

CD
『フランク&R.シュトラウス:ソナタ/堤 剛』
マイスター・ミュージック
MM-4009
¥3000+税
5/25(木)発売