ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団 ワーグナー:《ラインの黄金》(演奏会形式)

若きシェフが響かせる新世代のワーグナー

 日本フィルと首席指揮者ピエタリ・インキネンが好調だ。筆者は1月のブルックナーの交響曲第8番を聴いたが、ほんのりと上気したあでやかな演奏で、勢いのある演奏が持ち味の日本フィルから一味違ったカラーを引き出していた。現ポスト就任は昨年9月だが、すでに2009年から首席客演の任にあり、シェフ第一シーズンから高いパフォーマンスを挙げている。
 さて、4月から5月にもブラームス交響曲ツィクルスが予定されるなど見所に事欠かない両者だが、演奏会形式によるワーグナーの《ラインの黄金》は今シーズンのハイライトの一つだろう。全4作・15時間近くを要する《ニーベルングの指環》は、日本では長い間、制覇の困難な“名峰”のような存在だったが、ここにきて国内団体の様々なチャレンジが見られるようになった。オペラでも実績を積んでいるインキネンは、すでにリング全曲を2013年、16年とオーストラリアで手掛け、高い評価を得ている。日本フィルとも13年には第2作の《ワルキューレ》第1幕を、そして昨年9月の就任披露では《ジークフリート》、《神々の黄昏》抜粋を手掛けて“リング戦線”に名乗りを上げた。序夜となる《ラインの黄金》で一通りの展望が描き出されることになる。
 今回は新国立劇場のリングでもヴォータンを歌っているユッカ・ラジライネンをはじめ、リリ・パーシキヴィ(フリッカ)、ウィル・ハルトマン(ローゲ)、ワーウィック・ファイフェ(アルベリヒ)など、主役級に世界の歌劇場を賑わせる名優が登場する。日本フィルもこの2月には山田和樹のタクトで久々にピット入りするなど、オペラに積極的に取り組んでいる。見計らったかのようなタイミング…いや、周到な計画と言うべきか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年5月号から)

第690回東京定期演奏会
5/26(金)19:00、5/27(土)14:00 東京文化会館
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
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