井上道義(指揮)

バーンスタインの「ミサ」はミュージカルを超えたミュージカル?!

Photo:M.Terashi/Tokyo MDE

 「歌手、演奏者、ダンサーのためのシアター・ピース」という副題を持つ、レナード・バーンスタインの「ミサ」(1971)は、通常のオーケストラ、合唱のほかに、18人の独唱者、児童合唱、ロックバンド、ブルースバンド、ダンサーなどの大規模な編成を必要とし、演奏時間が正味で2時間近くかかる大作だ。そのため、バーンスタインの集大成的な傑作にもかかわらず、海外でも滅多に上演されることがない。日本でも、1975年の合唱団グリーン・エコーの日本初演(78年、86年に再演)や、94年の井上道義指揮京都市交響楽団による上演などがあるくらい。そんなバーンスタインの「ミサ」が大阪国際フェスティバルで、国内では23年ぶりに上演される。再び、井上が指揮と演出を手掛ける。演奏は、大阪フィルハーモニー交響楽団と同合唱団。
「バーンスタインの『ミサ』は、僕がやらないと誰がやる? という内容なのです。僕はずっと自分の中で何か“違和感”を抱えながら生きてきた。その“違和感”が活動のエネルギーにもなったのですが、バーンスタインもまた、違和感を抱え続けていました。23年前の上演でも共感をもって取り組みましたが、今回、この作品にぴったりのフェスティバルホールでやれるのがとてもうれしい。
 作品が書かれたのはベトナム戦争の頃。バーンスタインは、白人の強力なドグマすなわちキリスト教に疑いを持ちました。神はいるのか? いないのか? と。『平和がほしければ、祈るだけではいられない、実行するのみ』とロック歌手やブルース歌手がグルーヴ感いっぱいに呼びかけます。それに対して合唱は、正攻法の歌唱で“ミサ曲”を通じ祈りの大切さを歌います」
 本作品で主役を担うのは司祭。今回、井上は司祭に作曲者バーンスタインを重ね合わせる。司祭役は大山大輔。
「バーンスタインは、作曲家、指揮者、ピアニストとして二重三重の悩みを抱えていました。本来は作曲がやりたかったし、なりたかった人間にもなれなかった」
 大山ほか、小川里美、小林沙羅、鷲尾麻衣、森山京子、藤木大地、与那城敬、ジョン・ハオほか、18人からなる豪華歌手陣は、井上自身が適材適所で選んだ。
「主役の大山君は、一昨年、野田秀樹演出の《フィガロの結婚》のときもそうでしたが、相談相手として、心強い」
 井上は、1970年代半ば、アメリカのタングルウッド音楽祭でひと夏の間、バーンスタインに師事したことがある。
「ものすごくピアノがうまく、楽譜も読める。とんでもない才能で、これが一流なのねと降参しました。そのときは、リストの『ファウスト交響曲』をやったのですが、彼はストーリーからアイディアまで全部話し、ピアノで弾いてくれました。そういうことができたのは、他にサヴァリッシュくらいでしょうか」
 今回の演出は、23年前の上演とはまったく違う新しいものになるという。オーケストラや合唱などを含めると出演者は総勢約200名。
「“宗教音楽”ではありません。ミュージカルのような作品です。僕は音楽だけで生きているわけではないので、シアター・ピースには特に心が惹かれます」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ 2017年5月号から)

大阪フィルハーモニー交響楽団創立70周年記念
第55回大阪国際フェスティバル2017
バーンスタイン「ミサ」(新制作)
7/14(金)19:00、7/15(土)14:00 フェスティバルホール
問:フェスティバルホール チケットセンター06-6231-2221
http://osakafes.jp/