藤木大地(カウンターテナー)

話題の逸材が歌う「詩人の恋」

 現在の日本のクラシック界における“時の人”藤木大地。それは、2012年に日本音楽コンクールで史上初、カウンターテナーで優勝した時の大センセーションをしのぐニュースがもたらされたからだ。今年4月、ウィーン国立歌劇場にライマンのオペラ《メデア》ヘロルド役でデビューするのである。
 「ウィーン国立歌劇場の舞台に立つことは夢のひとつだった」と語る藤木が、テノールからカウンターテナーに転向したのは11年。それからわずか6年で夢の舞台に立つことになったのだから、彼の実力のほどがわかる。しかし、この転向は大変ではなかったのだろうか。
「テノールとは違う筋肉を使うのでそこを鍛えること、コロラトゥーラなどのテクニックを身につけること、それ以外は、これまでに学んできたことがすべて役立っています。発声も同じ。ただ“楽器”が変わっただけです」
 その楽器を使っての活躍は、オペラにリサイタルにと、まさに八面六臂。そんな藤木がこの5月にHakuju Hall『ワンダフルoneアワー』で歌うのは、なんとシューマンの「詩人の恋」だ。ピアノは松本和将。
「声楽を始めた時からフリッツ・ヴンダーリッヒが好きで、彼が歌う『詩人の恋』を聴いていつか自分も、と思っていました。彼が亡くなった歳である36歳を超えて、彼に近づきたいという思いから選びました」
 カウンターテナーというとバロック・オペラの声種というイメージが強いが、そうした固定観念にも藤木は挑戦しているようだ。
「みんな、それぞれ自分が持っている楽器で音楽を演奏しています。僕は、“僕の楽器”でできることをする。それが、今回は『詩人の恋』だった。ただそれだけのことです」
 ただそれだけのこと、がなかなかできない。いや、それは技術的なことだけではなく、音楽家としての精神がとても「自由」だからこそ可能なのだろう。その「自由さ」は4月にリリースされる初CD『死んだ男の残したものは』(キングインターナショナル)にも現れている。松本和将、加藤昌則、福田進一、大萩康司、西山まりえといった共演者とともに演奏する曲目には、古今の日本歌曲、アイルランド民謡などが並ぶ。
「共演者は全員、これまでコンサートでご一緒したことのある方たちです。彼らとやるならこれだ、ということで曲目を選びました。それにウィーン・デビューの日に劇場に置いてもらえることになったので、日本歌曲を多めに入れたんです。これが日本の音楽だよ、って言えるように」
 考え抜かれたプログラム、鍛えられた身体、そして何より自由な精神。「新世代のカウンターテナー」藤木大地が歌うシューマン「詩人の恋」とシューベルトの歌曲を、彼が愛するHakuju Hallでぜひ体験したい。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ 2017年4月号から)

第27回 ワンダフルoneアワー
5/19(金)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp/