東 誠三(ピアノ)

「巡礼の年第2年」全曲に向き合い、リストの偉大さを再認識

©寺澤有雅

 日本を代表するピアニストとしての活発な演奏活動に加え、東京芸大教授、東京音大非常勤講師を務め、多くの優秀な生徒を輩出している東誠三は、2012年にはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏を終え、昨年からは新しいリサイタル・シリーズを開始した。これまでに弾いてきた大切なレパートリー、さらには新しい曲への挑戦など、多岐にわたる取組みをみせる。
「ピアノのために書かれた素晴らしい作品たちと深く付き合っていくために、新たなシリーズを開始することにしました」
 これからのシリーズでは、毎回メインとなる大曲を据え、コントラストを生み出すように他の曲を配置していくという。この4月の公演で“核”となる曲は、後半に据えたリストの「巡礼の年第2年『イタリア』」。リストは東にとって重要なレパートリーの一つであり、度々弾いてきた印象があるが、同曲集を全曲通して弾くのは意外にも初めて。
「曲集を通して弾き、詩や絵画など他芸術の“解釈者”としてのリストの偉大さを改めて認識しました。たとえば『ペトラルカのソネット』は、詩で語られている心の動きというものを微細に捉えて、最も洗練された形でストレートに伝えていると思いますし、終曲の『ダンテを読んで』は、これさえ聞けば『神曲』がどんな作品かわかってしまいます」
 一方、プログラムの前半にはモーツァルトのソナタK.283とベートーヴェンの「ワルトシュタイン」を据え、リストとは全く違う世界観を創り出す。特にベートーヴェンは彼にとって非常に重要な作曲家。全曲をシリーズで演奏してきたことで、より東の中でベートーヴェン像が深まったという。
「ソナタを全曲弾き、ベートーヴェンの人生の変遷を辿ることで、彼の生活、幅広い交友関係、作品に投影されているアイディアの素晴らしさというものを、改めて感じることができましたし、より自由な発想で弾いていいということに気づくこともできました。これまで思いつかなかった新たな試みや、演奏の際に“弾く”という行為よりも“表現”を重視するようになり、曲について考えることの楽しさがもっと広がってきたように思います」
 “いま”の東だからこそできるリストにモーツァルト、ベートーヴェンの演奏はもちろん、今後さらなる広がりをみせるであろうシリーズの展開に期待が高まる。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ 2017年4月号から)

4/23(日)14:00 東京文化会館(小)
問:ムジカキアラ03-6431-8186
http://www.musicachiara.com/

他公演
4/18(火)宗次ホール(052-265-1718)