原田英代(ピアノ)

ロシア&ドイツ音楽に聴く“さすらい”

©Uwe Arens

©Uwe Arens

 巨匠ヴィクトル・メルジャーノフから受け継いだロシア・ピアニズムの理念を体現するピアニスト、原田英代。冴え渡る感性と深みある演奏で、聴く者の心を捕らえて離さない原田が、Hakuju Hallで5年にわたるリサイタル・シリーズを展開する。5回それぞれのテーマは、「さすらい」「葛藤」「変容」「統一」「光」。人生や国家の歩みを音楽で描く壮大な試みだ。
「私の師メルジャーノフは、音楽とは人生の一こま一こまを表しているものだと語っていました。演奏家は、作曲家が人生の中でイデーとして捕らえたものを音にしているのであり、自己を誇示してはならぬ、と厳しくおっしゃっていました。私は東京芸大時代にケンプのリサイタルに出かけ、彼が天と繋がり触媒となって演奏する姿を見て胸を打たれた経験があります。“地上においての天国”を作り、世界を幸せにすること——それが演奏家の使命だと思っています」
 第1回のテーマ「さすらい」は全5回を通底するようなテーマだと語る。
「人生とは、“さすらい”に始まります。右も左もわからない。生きていく間に葛藤も変容も統一も起こる。最後は光に到達したいと生きていますが、ラフマニノフのように、晩年にさすらってしまう人もいる。アメリカに亡命した彼は大きな価値観の転換を経験し、ほとんど作曲ができなくなりました。後年の作『コレルリの主題による変奏曲』は最後が弱音で終わり、さすらいのまま幕を閉じています」
 変奏曲形式もこのリサイタルのもう一つの大事なテーマだ。1曲目はバッハ=ブゾーニの「シャコンヌ」、2曲目にはシューベルトの「さすらい人幻想曲」(第2楽章が変奏曲)が置かれている。後半はリストの「オーベルマンの谷」に続いて、前述のラフマニノフの変奏曲で締めくくる。
「『シャコンヌ』は苦難を表す音型で深く沈んでいきます。シューベルトの作品は、野心に燃えた“さすらい”です。少し先を急ぐような若い“さすらい”ですね。『オーベルマンの谷』は、悩んで悩んでなんとか答えを見つけようとする人の“さすらい”。最後が明るく終わるこの曲は、救済があってこその大悲劇成立という、リストのドイツ的な視点が含まれています」
 3月3日のリサイタルに続き、7日にレクチャー&マスタークラスも行われる。ロシア人の感性やロシア音楽の特性などを対談形式でトークし、2名の門下生(黒崎拓海、伊澤悠)を公開レッスンする。「人間の感情を、どう具体的に音楽にしていくか、その仕組みがわかる内容ですので、多くの方に楽しんでいただきたいです」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ 2017年1月号から)

ピアノ・リサイタル 第1回 「さすらい」
2017.3/3(金)19:00
レクチャー&マスタークラス
2017.3/7(火)18:00
Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp/