フェルッチョ・フルラネット(バス)

マリインスキー・オペラで、“当代随一”のフィリッポを披露

©N.Razina

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 イタリアが生んだ「オペラ界の至宝」フェルッチョ・フルラネット。10月のマリインスキー来日公演でヴェルディ《ドン・カルロ》の国王を演ずるこの大バス歌手が、“当代随一”の定評あるこの役への想いを語る。
「フィリッポ役を初めて歌ったのは1980年です。以来、世界中で演じ、最も共感させられる役柄になりました。私は、最も重要な5幕版第4幕(4幕版第3幕)の自室のシーンを、ヴェルディが『こうあってほしい』とイメージした通りの演技でやりたいので、アヴァンギャルドな演出よりも伝統的な世界観を好みます。でも、近年は思いつきだけの演出家も多く、喧嘩になることもあります(笑)。音楽や台本に書かれていないことをプロにやらせようとするからですよ。でも、マリインスキー・オペラのG.B.コルセッティさんのプロダクションはそうではなかった。だから、日本でも演じたいと希望したのです」
 ここでコルセッティ演出の特色について。コスチュームは伝統的な美感に基づくデザインだが、舞台装置はすっきりしたモダンなもののよう。
「個性の強い演出ですね。いわゆる『トラディショナル』ではないですが、音楽と台本には忠実に仕上がっていました。自分の“舞台史”にこのステージが加わったことは幸運でした。舞台装置ですが、ただモダンだというものではなく、正面から見ると様式的に纏まっていてシンプルですね。宮殿のシーンも照明で幾通りもの変化がつけられます。こうした装置と衣裳の融合を、日本の皆様はどのようにご覧になるでしょうか?」
 続いて、国王フィリッポ2世の人物像と音楽的な魅力について。
「ヴェルディが書いた全てのバスの役で最も『美しい』ものでしょう。音楽的な美しさに留まらず、役そのものとして輝いているのです。例えば、ロドリーゴとの二重唱(5幕版第2幕)は政治上の対論の場であり、かつ人間的な場面です。彼がロドリーゴの中に、じつはこのような息子が欲しかったのだという姿を見出すからですね。また、先述の自室のアリア〈彼女は私を愛したことがない〉は内面を吐露する最大の聴かせどころですし、宗教裁判長との二重唱では政治と宗教の思惑が絡んできます。とてもドラマティックな人物像です」
 指揮者ゲルギエフとの共演も待ち遠しい。
「ゲルギエフさんは、ご自分の音楽的・芸術的な力量を活かしてマリインスキー・オペラの存在を世界中に知らしめる大指揮者ですね。彼との仕事は喜びそのものです。終演後も一緒に食事して冗談を言い合って、レストランが閉まるまで喜びは続きます(笑)。彼は約束したことを必ず実行する男。周囲もその成就を確信します。だから、10月の来日公演も楽しみにしています」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

マリインスキー・オペラ
ワレリー・ゲルギエフ(指揮) マリインスキー歌劇場管弦楽団&合唱団
《ドン・カルロ》
10/10(月・祝)14:00、
10/12(水)18:00 東京文化会館
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
※マリインスキー・オペラ来日公演の詳細は下記のウェブサイトでご確認ください。
http://www.japanarts.co.jp