日本フィル創立60周年記念 ピエタリ・インキネン首席指揮者就任披露演奏会

ドイツの深き森で、注目の新体制が始まる

 これほどスムーズで意味あるシェフの交代は滅多にない。創立60周年を迎えた日本フィルが、今秋から、欧米著名楽団での活躍も顕著なピエタリ・インキネンを首席指揮者に迎える。といっても彼は、2009年から同楽団の首席客演指揮者を務め、シベリウスやマーラーなど幾多の名演を残してきた。しかも同フィル演奏レベルの大幅向上の立役者たる前任のラザレフが、今後も年2回登場する。ならば、これまで培った特性を変えずに、さらなる新展開が期待できる。
 インキネンは、楽節ごとの構築を明確に描きながら、恰幅のいい音楽を聴かせる。それゆえ日本フィルで今後独墺ものに重点を置くのもわかるし、特にハマるのはワーグナーであろう。実際彼は《ニーベルングの指環》全曲を何度も指揮し、同楽団でも13年9月定期の《ワルキューレ》第1幕で、ワーグナー・イヤーの公演中、屈指の高評価を得ている。
 そこで就任披露演奏会には、ワーグナー《ジークフリート》と《神々の黄昏》の抜粋が選ばれた。歌手には、バイロイト音楽祭の常連でもある世界的ヘルデン・テノール、サイモン・オニールと、METをはじめ著名歌劇場で活躍するソプラノのリーゼ・リンドストロームを迎える盤石の態勢。中でも、前記《ワルキューレ》で圧倒的な歌声を聴かせたオニールにかかる期待は大きい。《指環》後半の2作は、ワーグナーの真髄が詰まった深き世界。インキネンの重厚な表現に、サウンドの幅と活力を増した日本フィルがどう応えるか? いやがおうにも興味は募る。新体制の門出を祝いながら、今後を示唆する本公演を、とくと堪能したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

9/27(火)19:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp