中村芙悠子(ピアノ)

 ハノイ国際ピアノコンクール、東京音楽コンクール入賞の経歴を持ち、4月からベルリン芸術大学で学んでいる中村芙悠子。「女神すぎる癒し系ピアニスト」のキャッチコピーに相応しい印象的な瞳と端正な容姿を持ち、ミス日本コンテスト2016では東日本大会にまで進出したという。
 そんな彼女が、アルバム『ピアノ愛奏曲集』でデビューする。繊細さと芯の強さが現れた、美しい小品集だ。
「時代も国も違う作品、誰もが知る名曲を取り上げています。名曲には、強い思い出があるという方もたくさんいらっしゃるんですよね。そう思うようになったのは、大学1年の頃、聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生の講演でドビュッシーの『月の光』を演奏したことがきっかけでした。先生は、戦前・戦中の時代にどうしても『月の光』を弾いてみたいとフランスから楽譜を取り寄せたそうです。時代的になかなか弾けなかったけれど、大切な思い出の曲だとおっしゃっていました。今は簡単に楽譜が手に入る時代ですが、渇望して楽譜を入手し表現すること、そこから生まれるエネルギーには特別なものがあっただろうと。以来『ベルガマスク組曲』は私にとって特別なレパートリーになりました」
 過去にピアノを学んでいた人が気軽に手に取りやすい選曲も心掛けた。
「知っている曲があれば、興味を持つきっかけになるのではないかと。一つひとつの曲が、大作曲家の上質な音楽だと多くの方に知ってほしいという想いで、愛しい小品を集めました」
 そんななか目を引くのが、彼女が中学生の頃から大切にしている作曲家だというシベリウスの「樹木の組曲」。
「シベリウスは音色の感じがとにかく好きなんです。それに、表現者としての自分のカラーにも合っているのではないかと。もっとシベリウスの小品が聴かれるようになってほしいです」
 一方、東京音楽コンクール入賞の褒賞リサイタル(9/24)では、ドイツに留学してから自身の中で“ブーム”だというシューマンも取り上げる。
「『花の曲』は本当に美しい曲ですし、『謝肉祭』も記念公演にふさわしい素敵な作品です。ドイツで暮らしていると、作曲家の存在を感じる場所が身近にあります。ライプツィヒのシューマン・ハウスにも行きました。ライン川を訪ねた時は、シューマンはここに飛び込んだのかと。もう少しきれいな川なのかと思っていたら、緑色で底が見えない。でも、底が見えないからこそ彼は飛び込んだのかもと…」
 海外で初めての一人暮らしゆえ、生活面の苦労は尽きないが、「一流の先生や仲間から刺激を受ける環境がたまらなく幸せ」と笑う。
「ただ、これまで島国で育つ中で知らなかったことにも気づきはじめました。学校内にはいろいろな国籍の人がいます。誰かを傷つけることがないよう、歴史や政治をもっと知らなくては。自分が世界の中の一部であるという自覚を持てるようになりたいです」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2016年8月号から)

東京音楽コンクール入賞者リサイタル
9/24(土)14:00 東京文化会館(小)
問:アレグロミュージック03-5216-7131
http://www.allegromusic.co.jp

CD
『ピアノ愛奏曲集』
ビクター VICC-60940 ¥3000+税
8/24(水)発売