濱田めぐみ(ミュージカル女優)

これは、“ハッピースタート”の物語だと思います

 アンドリュー・ロイド=ウェバーのヒット作『Tell Me on a Sunday〜サヨナラは日曜日に〜』は、たったひとりの女優によって演じられるソロ・ミュージカル。小さなスーツケースひとつでロンドンからニューヨークへやってくる女性エマが、次から次へと恋に破れ、それでも夢を失わずに強く生きていく姿が、ロイド=ウェバーならではの流麗でゴージャスなメロディによって描かれる。この健気で勇敢なヒロインを演じるのが『アイーダ』『ウィキッド』など、日本のミュージカル界で絶大な人気と実力を誇る濱田めぐみだ。この取材も『ジキル&ハイド』の名古屋公演の直前に行われたが、多忙の中でもパワー全開のトークで応じてくれた。
「コンサートやライヴで『一人で歌う』ということには慣れているので、ソロで演じることはあまり心配していませんが、最初から最後までずっとエマという役でいることをもたせられるかが心配です。彼女はイギリスの片田舎から『デザイナーになりたい』という夢をもって出てきて、出会う男出会う男みんなに浮気をされてしまうんですね。中には妻子持ちの男性もいて、彼女は彼の娘とも会ってしまう。だいたい1年間のドラマを描いているのですが、舞台にすると約70分で、最後に彼女は少しだけ前に進むことができるんです。ハッピーエンドならぬ“ハッピースタート”の物語だと思います」
 演出・翻訳・訳詞を手掛ける市川洋二郎は英語のオリジナルを見事な日本語に移し替え、繊細で壊れやすいヒロインの心を歌詞に乗せていく。
「この作品に出演している最中、私もすごくきついと思います。人間関係や親子関係の難しさは舞台である程度発散できますが、恋愛ものは何故だかわからないのですが、後を引くんですよ。身近にありすぎることですし、『あのときああだったなあ』とか、いちいち身につまされてしまう。本質にグイグイ迫ってくる台詞が多いので、後半の一週間はきっと、物語に憑かれているかもしれません(笑)」
 劇団四季時代からトップスターとして走り続け、今年で活動20周年を迎える。特別な節目の年という意識は?
「あまりないです(笑)。この調子で、もっと時が早く進んでいくんだろうなと…。20年間応援してくださったお客様に応えるためにも、21年、22年と頑張って年を重ねていきたいですね。毎回、エネルギーを出し切ってしまうので、精神面でも枯渇が大変ですが、かえって舞台という仕事がないと途方に暮れてしまうんです。プライベートでは何をしたらいいのかわからないんですね。いかに体調を崩さずに次に行けるかというのは課題なのですが…。結局、舞台の上が一番リラックスできる場所なんです」
 新国立劇場の小劇場は初体験。一度見たらリピートしたくなる濃厚な「女心の真実のドラマ」を見せてくれそうだ。
取材・文:小田島久恵
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)

ミュージカル『Tell Me on a Sunday〜サヨナラは日曜日に〜』
6/10(金)〜6/26(日) 新国立劇場(小)
問:ホリプロチケットセンター03-3490-4949
http://hpot.jp/stage/sunday