チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

充実のキャスティングで聴く《蝶々夫人》

 やはりチョン・ミョンフンと東京フィルの絆は深い…。それを痛切に実感したのが、2月定期のマーラーの交響曲第5番。精緻な構築による立体的かつ迫真的な音楽に、近年の同曲の演奏には稀なほどの感動をおぼえ、当コンビの底力に改めて唸らされた。この15年来のコンビがマーラーと共に格別な実績を残してきたのがオペラ。《椿姫》《トリスタンとイゾルデ》をはじめ忘れ難い名演ばかりだ。そして遂に7月定期で、プッチーニの《蝶々夫人》が披露される。
 当コンビは、2002年に藤原歌劇団・韓国オペラ団の《蝶々夫人》で、劇的かつ精妙な演奏を聴かせて絶賛を博した。今回はその後14年間絆を深めた中での演奏ゆえに、間違いなく聴きものだ。主役は、この3月ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場におけるチョン・ミョンフン指揮の舞台で同役を歌う2人。蝶々夫人役のヴィットリア・イェオは、1980年韓国生まれの気鋭のソプラノ。近年イタリアの歌劇場を中心に活躍し、昨年ムーティの指揮でザルツブルク音楽祭にもデビューしている。ピンカートン役のヴィンチェンツォ・コスタンツォは、91年イタリア生まれの若きテノール。既にスカラ座など各地の一流歌劇場で歌い、フィレンツェ歌劇場でピンカートン役のロール・デビューも果たしている。さらにはウィーン国立歌劇場の元専属ソリスト、甲斐栄次郎がシャープレス役で参加。この万全の態勢による上演を、音楽のみに集中できる演奏会形式で味わえるのも、必聴のゆえんだ。
 オペラに長けたコンビで聴く感涙の名作。これまさに極め付けの公演というほかない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年4月号から)

第882回 サントリー定期シリーズ 7/22(金)19:00 サントリーホール
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